東京都内の分譲マンションに住み、管理組合の役員を務めるAさん(57)は今後予定する⼤規模修繕⼯事について悩んでいる。マンションは築27年で、14年前に1回⽬の⼤規模修繕⼯事を実施済み。そろそろ2回⽬の⼤規模修繕が必要な時期で、費⽤を⾒積もったところ修繕積⽴⾦会計の残⾼を1000万円ほど上回った。「50⼾余りの組合員に追加負担を求めると1⼾当たり約20万円になる。理解を得られるのか」という。

分譲マンションは築年数が経過するのに伴って、建物や共⽤部分が劣化する。資産価値と住みやすさを維持するには定期的な修繕が重要だ。屋根や外壁などを修理する⼤規模修繕⼯事は⼗数年ごとに必要とされるが、資⾦不⾜に悩む管理組合は多い。

⼯事費がここ数年で⼤幅に上昇したり、管理組合の組合員が毎⽉払う修繕積⽴⾦が⼊居当初の低い⽔準のままだったりするためだ。毎⽉の積⽴⾦を引き上げるには管理組合総会での合意が必要で、難航するケースは少なくない。特に「居住者が⾼齢化したマンションで積⽴⾦が不⾜して修繕できず、⽼朽化が深刻になる」と、⼤和ライフネクスト(東京・港)マンションみらい価値研究所の久保依⼦所⻑は指摘する。

⼤規模修繕で減税特例

そこで政府は2023年4⽉、⼤規模修繕⼯事を実施したマンションを対象に各住⼾の建物部分の固定資産税を減額する特例を導⼊した。「修繕積⽴⾦の確保や適切な⼯事実施に向けた管理組合の合意形成を後押しする」(国⼟交通省)ことが⽬的だ。

対象になるマンションは築20年以上で、外壁の塗装や床と屋根の防⽔といった建物の「⻑寿命化」につながる⼯事を過去に実施している必要がある。さらに修繕積⽴⾦を引き上げ、⾃治体から「管理計画認定制度」で認定を受けることなどが条件だ。

修繕積⽴⾦は⼀定⽔準を上回る必要がある。国交省が21年に改定したガイドラインでは、20 階建て以上の修繕積⽴⾦の下限値は1平⽅メートル当たり⽉240円、20階未満で延べ床⾯積5000平⽅メートル以上1万平⽅メートル未満で⽉170円となっている。

⼀⽅で実際の修繕積⽴⾦の額はどうか。不動産コンサルティング会社、さくら事務所の集計によると、東京都⼼9区で⼤⼿7社が分譲した新築マンションの修繕積⽴⾦の平均額は22年で⽉約180円となっている。20階建て未満の下限値を上回るが、タワーマンションなどが該当するとみられる20階建て以上は下回る。

積⽴⾦が不⾜するマンションではAさんの例のように1⼾当たりの負担が合計で数⼗万円単位になることが珍しくない。特例で減額する固定資産税は建物部分の6分の1から2分の1。減税額はケース・バイ・ケースだが、専⾨家の間では年間数万円程度との⾒⽅が出ており、多くの場合は不⾜する積⽴⾦を賄うことは難しい。

早めの対策が肝⼼

実際に積⽴⾦が不⾜する場合にはどうすればよいのか。まず考えたいのが不⾜分を分割払いで徴収すること。まとまった⾦額を⼀括払いするのに⽐べ組合員の合意を得やすい⾯があるためだ。

すでに外壁や屋根などが傷み始め、⼯事が遅れると建物の劣化が深刻になりかねない状況なら借り⼊れが選択肢だ。「当⾯の資⾦が不⾜している場合は借り⼊れで早めに⼯事を実施 し、資産価値の低下を抑えることが⼤切」とさくら事務所のマンション管理コンサルタン ト、⼟屋輝之⽒は助⾔する。

住宅⾦融⽀援機構や⺠間の⾦融機関では管理組合向けの融資を⼿掛けている。例えば住宅⾦融⽀援機構の「マンション共⽤部分リフォーム融資」は原則として1年以上10年以内の期間で、100万円から固定⾦利で借りられる。耐震改修⼯事やエレベーターの交換などを伴う場合は返済期間を20年まで延ばすことも可能だ。管理計画認定制度の認定を受けているケースなどは⾦利の優遇もある。

融資なので最終的には毎⽉の修繕積⽴⾦の引き上げなどで返済原資を確保する必要がある。しかし「⾼額の⼀時⾦を全組合員に払ってもらうよりはハードルが低い」(⼟屋⽒)。

⽬先の対策としては⼯事の時期を変更することも考えたい。マンションの規模にもよるが、⼤規模修繕は3⽉ごろから⾜場をかけて夏前に撤去する「春⼯事」と、秋に⼯事を始めて年末までに終える「秋⼯事」が⼀般的。繁忙期を避ければ職⼈の⼈件費や⾜場の部材費などのコストを抑えられる。かつては⼯事期間中に住⼾のエアコン使⽤が制限されることが多く、夏場などの⼯事は敬遠されがちだったが、現在は利⽤できるケースが⼤半になっているという。

⻑期的な対策では管理組合の収⼊源を広げるのが⼀案だ。最近増えているのが、住⺠⽤駐⾞場に空きがある場合に外部の個⼈や事業者に貸し出し、賃料を得る⽅法だ。マンションの屋上に携帯電話の基地局を設置する⼿もある。

ただ基地局をどこに設置するかは携帯電話会社側の判断。マンションの⽴地が会社側のニーズに合うとは限らない。また駐⾞場の貸し出しや携帯電話基地局で収⼊を得ると「収益事 業」とみなされ、毎年税務申告する必要もある。

⼤規模修繕⼯事の周期を延ばす⽅法もある。12年や15年ごとに実施していた⼯事を18年ごとにすることで、総費⽤を削減できるとうたう業者も増えている。防⽔などの保証期間が⻑期化していることや施⼯業者の競争が激しくなっていることが背景だ。

修繕積⽴⾦が⻑期的に不⾜する原因として関⼼を集めているのが、機械式駐⾞場の稼働率の低下だ。機械式駐⾞場は⼊居者のうち希望者が利⽤し、毎⽉⼀定額を管理組合に⽀払う仕組み。特に⼤都市圏で⼾数が100⼾を超えるなどの⼤規模マンションでは管理組合の収⼊源のひとつとなっていた。バブル期にはマンションの駐⾞場不⾜が問題にな り、⼤規模マンションを新築する際には⼀定台数以上の駐⾞場を確保するよう条例で義務付けた⾃治体も多かった。

しかし近年は⼤都市を中⼼にカーシェアリングなどを利⽤してマイカーを⼿放す⼈が増え、機械式駐⾞場に空きが⽬⽴つマンションが多い。空きが出れば毎⽉の収⼊が減る⼀⽅、維持コストは変わらないため、管理組合の収⽀が悪化する原因となっている。

こうしたことから駐⾞場の貸し出しに加えて、設備更新などのタイミングで⼀部を撤去し、台数を減らすマンションも増えている。⾃治体でも条例を改正し、設置台数の義務を緩和する例が多い。撤去する際は区分所有者間の利害関係を調整する必要があり、総会で否決されるケースもある。だが台数を適正な規模にすれば設備の更新・維持費を減らすことができ、組合の収⽀改善につながる。