2024/3/13 5:00 日本経済新聞 電子版

インバウンド(訪日外国人)需要の回復でオーバーツーリズム(観光公害)への懸念が高まっている。国際的スノーリゾートのニセコエリアではスキー場の混雑や交通渋滞が特に目立つ。地価や家賃の上昇、物価高も顕著だ。乱開発を食い止めようと行政が動き始めた。
ニセコには世界各国から上質なパウダースノーを求めるスキーヤーが集まる。倶知安観光協会によるとニセコエリア(倶知安町内)の宿泊延べ数は、2023〜24年シーズンに新型コロナウイルス禍前を上回る見込みだ。

スキー場や宿泊施設が集まるリゾート中心部のひらふ地区。朝夕はスキー場に向かう人やホテルに帰る人で渋滞が発生し、年末年始は「普段は10分程度で済むリゾート中心部から市街地までの移動に約1時間かかった」(地元のリゾート関係者)。
タクシー不足も深刻で「3時間待つこともある」。富裕層のインバウンド向けにハイヤー事業を展開するマイノリズム(北海道千歳市)の長谷康礼代表はそう嘆く。

ニセコエリアは朝夕に交通渋滞が発生している(2月、北海道倶知安町)

観光と地域社会の共存を図るため動いたのは行政だ。倶知安町は乱開発に歯止めをかけるため、リゾート開発に関する新ルールの運用を23年10月から始めた。内容は大型宿泊施設が建設されないように制限を強化し、過剰な投資や開発を抑える「総量規制」ともいえるものだ。

隣接するニセコ町は04年に景観条例を施行し、定期的に内容を見直す。24年9月にも条例を改正し、専門家会議の設置などを検討する。

片山健也町長は「当時は高さ80メートルの建物を建てたいとの問い合わせがあった。完成すれば景観はズタズタになるだけに、乱開発を防ごうといち早く景観条例を導入した」と振り返る。リゾート開発にあたっては、事業者と町に加え、町民との対話の場を設ける。「事業者と住民の相互理解を深めてもらう過程が重要だ」

ひらふ地区中心部の駐車場では、一部区画を有料とする実証実験を行った。1日あたりの料金は3000円で、年末年始は5000円とした。従来は全区画が無料だったが、有料化で交通量の削減を目指している。渋滞の背景にはリゾート中心部の飲食店不足もあり、フードトラックの出店スペースを観光協会が確保するといった対策も進む。

倶知安町内の宿泊施設定員は23年9月末に1万6000人を超え、19年6月比で3割増えた。ニセコエリアへの投資はなお熱を帯びるが、行政の過度な観光客の増加を抑止する姿勢は民間にも伝播(でんぱ)し始めた。東急不動産は23年に閉館した「ホテルニセコアルペン」を高級コンドミニアムホテルに建て替える。客室数を抑えて1室あたりの単価を高める戦略だ。

倶知安町では道内の他自治体と同様に人口減が進み、22年には宿泊キャパシティーと人口が逆転した。リゾート中心部の基準地価は23年までの4年間で2倍近くに高騰。それに伴い、住宅の賃料も上昇傾向だ。

少子高齢化による人口減に加え、地価上昇などを背景に転出する人が増えれば「『住民不在』の観光地になってしまう危険性もある」(北海道大学の石黒侑介准教授)。

悪循環を食い止めるには「量より質」の観光政策を進め、その恩恵を地元経済に還元する必要がある。観光客の満足度を高めることは「ニセコブランド」の維持にもつながる。客数よりも観光収入を重視し始めた国の方針とも符合する。

スキー場ではリフト券を値上げする一方で町民限定の割引を始めるなど、観光で得た収入は地元に還元されつつある。観光客急増による恩恵が地域全体に行き渡れば「観光立国」の新しいモデルとなり得る。

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