2024/2/12付  ⽇本経済新聞   朝刊

国税当局による富裕層への相続税調査が厳しくなっている。節税策などに対し、税負担の⼤幅増につながる特別規定の「総則6項」を適⽤する例が急増した。かつて適⽤が極めて少なく「伝家の宝⼑」ともいわれた規定だが、専⾨家は「国税当局が⼀般的に使う⼿法になりつつある」と指摘している。

「6項による課税処分を検討することになります」。2023年、ある相続税を巡る調査で、国税当局の担当者が納税者側に迫った。この納税者は多額の資産を持ち、資産管理会社を活⽤するなどのスキームで相続税の軽減を試みていた。

節税策は合法で、通常の相続税の算定ルールでは税負担が⼤幅に減る計算だった。だが国税当局は簡単に認めず、総則6項という「宝⼑」をちらつかせた。総則6項は「著しく不適当と認められる財産の価額」の場合、通常の算定ルールとは別の⼿法で財産評価をやり直せるものだ。

結局、納税者側が折れて修正申告をし、この件で6項は適⽤されなかった。だが関与した税理⼠は「6項の活⽤に関し、明らかに国税当局がシフトチェンジした」と振り返る。

相続税は、相続した財産の総額に税率をかけて計算する。財産は「時価で評価する」とされ、通常は国税当局の内部ルール「財産評価基本通達」に従って⾒積もる。ただ財産の種類や納税者が節税スキームを組んだ場合などによって、通常の⼿法では極端に納税額が低く算出される例もある。こうした場合に対応するための規定が「総則6項」だ。かつて国税当局内部には「あくまで例外的な規定で、なるべく使わずに済ませたい」との声もあった。

だが近年、潮⽬が変わった。国税庁によると、2012事務年度(2012年7⽉から13年6⽉まで)から21事務年度までの10年間で総則6項の適⽤は計9件のみ。それが22事務年度だけで⼀気に6件に急増し、23事務年度も23年10⽉末時点で3件ある。借⼊⾦を使って極端に税負担を減らす不動産節税などに適⽤されたもようだ。

節税ブーム注視

近年は、タワーマンションなど相続税の評価額と実勢価格がかけ離れた物件を利⽤した節税も盛んで、国税当局が注視している。

6項の適⽤急増の背景には22年の最⾼裁判決が影響しているとみられる。相続した不動産の評価に6項を適⽤した課税処分の妥当性が争われた訴訟で、最⾼裁は国税当局の処分を適法とした。最⾼裁は「相続⼈らは税負担の軽減を期待して不動産を購⼊、借り⼊れを⾏った。他の納税者との間に看過しがたい不均衡を⽣じさせ租税負担の公平に反する」とした。6項適⽤の是⾮を巡る最⾼裁判決は初めてだった。

判決後、国税庁は6項の適⽤に関する事務運営指針を現場に⽰した。(1)通達評価以外に他の評価⽅法が存在するか(2)著しい乖離(かいり)があるか(3)通達以外の価格とすることに合理的な理由があるか――などの内容だ。ある国税幹部は「6項を使うのにためらいがなくなった」と明かす。

富裕層に照準

もともと国税当局は富裕層への税務調査に積極的だ。22事務年度の所得税の税務調査で富裕層の申告漏れは、過去最⾼の総額980億円となった。相続税でも調査姿勢は厳しく、さらに6項という⼤きな武器が使いやすくなった形だ。

ただ「宝⼑」も絶対ではない。東京地裁は24年1⽉、国税当局が過去に6項を適⽤した案件について国税側敗訴の判決を出した。⾮上場株を巡る案件での適⽤の是⾮が争われ、判決は「6項の適⽤には、相続税負担を回避する⽬的を持って積極的な⾏為を⾏うなど特段の事情が必要」と指摘。そのうえで「特段の事情はなく、適⽤は違法」とした。国側は控訴した。

税務に詳しい平川雄⼠弁護⼠は、最⾼裁判決後に国税当局が6項を積極的に活⽤している現状を「理解できる」としつつ、「本来は6項を適⽤すべきでない事案にも過剰に適⽤されている懸念がある」とみる。

平川⽒は「最⾼裁判決は6項適⽤について、適⽤の可否が⼗分判断可能な要件は⽰した。国税当局と納税者側の双⽅とも、判決の趣旨に沿った慎重な検討が重要だ」と話す。

相続節税に対する国税当局の厳しい姿勢は、今後も続きそうだ。元熊本国税局⻑の渡辺定義税理⼠は「納税者は外部のコンサルタントなどが⽰す安易な節税策に⾶びつかない慎重さが必要だ。場合によっては専⾨家の活⽤なども検討すべきだ」と話している。

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