2024/5/18付 日本経済新聞 朝刊
海外の主要都市と比べた東京都内のホテルの割安感が強まってきた。2023年度の1泊平均のドル建て客室単価は177.3ドル(約2万7000円)だった。5年前に比べて約5%上昇したものの、ニューヨークやロンドンと比べて3~4割安い。円安を背景にインバウンド(訪日外国人)の流入が続くなか、値上げを模索するホテルが増えている。
不動産データ分析大手、米コスター・グループであるSTRの集計によると、東京の23年度の客室単価は新型コロナウイルス禍が本格化する前の18年度と比べて8.9ドル(5.3%)高くなった。
海外の主要都市のホテルの単価上昇率の勢いは強い。ニューヨークの客室単価は5年前に比べて19.9%高の304.4ドル、ロンドンは25.2%高の244.8ドルだった。シンガポールも250.9ドルと27.2%上昇した。
現地通貨建てでみると、日本が突出する。円建ての上昇率は37.9%高で、ロンドン(26.0%高)、シンガポール(30.2%高)を大きく上回った。背景にあるのは円安だ。対ドルでの円相場は昨年末に比べて10円以上安くなったことで、海外からくる訪日客にとって日本のホテルに宿泊しやすい環境になった。
インバウンドを主要なターゲットとしている都内のホテルは足元で値上げ圧力がかかっている。市場をリードするのが価格帯を引き上げた「ラグジュアリーホテル」と呼ばれる富裕層向けの高価格帯のホテルだ。
23年4月にJR東京駅前に開業したブルガリホテル東京では、5月の宿泊は公式ホームページで1室1泊30万円程度から提供している。25年にはJWマリオット・ホテル東京が高輪ゲートウェイ駅前に、26年にはヒルトン最上級ブランドであるウォルドーフ・アストリア東京日本橋が開業する予定で、平均単価を押し上げる見通しだ。
ビジネスホテルも連れ高する。訪日客が増えたことで全国のホテル稼働率は80%近くで推移し、予約がとりにくいホテルが増えている。すでに円建ての単価は24年3月時点で2万円以上に達している。大手宿泊予約サイトでは、東京・新宿にある歌舞伎町のビジネスホテルでは1泊3万円台がつく日もある。
客室単価引き上げはホテルを運営する企業の業績を押し上げる。ビジネスホテル「ドーミーイン」をてがける共立メンテナンスが発表した2024年3月期の連結純利益は前の期比2.9倍の124億円となった。
日米金利差が早期に縮小するとは考えづらく、為替相場が大きく円高に振れにくい環境だ。日本政府観光局によれば、24年3月の訪日外国人数は単月として初めて300万人を突破した。都内のホテル関係者は「国内客は減る可能性がある」と認識はするものの、コロナ禍からの需要回復に取り組むホテルは収益重視の姿勢を緩めていない。日本に住む日本人にとっては都心のホテルを利用しづらい状況が続く。
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