2024/4/27付 日本経済新聞 朝刊

個人の税申告の内容をチェックする税務調査が相続税で一段と厳しくなっている。調査で特に力を入れているのが、国外財産や相続で取得した土地の評価に関する申告が適正かどうか。資産を海外に移す富裕層が円安で増えているほか、地価が上昇するなか土地の相続税上の評価額が時価に比べ大幅に下回る例が目立つためだ。いずれも多額の追徴課税につながる可能性がある。税務署が注目するポイントを押さえておこう。

税務調査は調査官が納税者の自宅などを訪れて申告内容が適切かどうかを尋ねる「実地調査」、封書を送付して質問への回答や修正申告などを求める「文書による調査」といった方法がある。相続税の実地調査件数は2022事務年度(22年7月~23年6月)に8196件と、コロナ禍が本格化する前の19年度の8割弱に回復した。23年度について国税庁は「前年度を上回ることを目指している」としており、コロナ禍前の1万件程度に戻る可能性が大きい。

見逃せないのは調査1件当たりの追徴税額が800万~900万円台と、コロナ前の600万円前後を上回る水準が続いていること。「1件で多くの税額を追徴できる案件を実地調査に入る前に洗い出しているようだ」と税理士の藤曲武美氏は話す。納税者が過去に申告した内容、金融機関から入手した預貯金口座や口座間のやり取りといった情報を入念に調べている可能性が大きいという。

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「最近は外国金融機関の口座にある預金、有価証券などを対象にした調査が目立つ」。こう指摘するのはランドマーク税理士法人の清田幸弘代表税理士。円相場が20年末ころに下落傾向に入り、円安によるインフレで円建て資産が目減りすることを避けたい富裕層が増えたことが背景にあるという。海外なら日本の当局の目が届きにくいのではという意識もある。

国税庁によると、日本人が海外に持つ金融口座は22年度に法人も含めて約253万件と20年度の約191万件から3割強増えた。国税庁は18年度から各国・地域の税務当局と金融口座の情報交換を本格化し、預金や有価証券の残高、利子・配当の受取額といった詳細な情報を入手している。経済協力開発機構(OECD)が策定した共通報告基準(CRS)に基づくためCRS情報とも呼ばれる。

一方、個人は毎年12月末時点で国外財産が5000万円超あると、財産の種類や金額などを記した国外財産調書を税務署に提出する義務がある。22年末の提出件数は1万2494件と9年連続で増え、金額は計5兆7222億円と過去最高となった。

税務署はCRS情報と国外財産調書などを照らし合わせ、申告漏れや過少申告の国外財産がないかを調べる。申告漏れなどがあると判断されれば、延滞税や加算税を含む追徴課税が発生する可能性が大きい。相続税の申告漏れ金額をみると国外財産は22年度に1件当たり4028万円で、全体の3209万円を上回る。調査効率が高いため、税務署が国外財産を重点的に調べる傾向は続きそうだ。

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「土地など不動産の評価額の根拠を細かく聞かれるようになった」。相続税の申告を扱う税理士は異口同音に話す。相続税は相続人が引き継いだ財産の課税上の評価額から基礎控除(非課税枠)を差し引き、控除を上回る金額に税率を掛けるなどして算出する。

土地の評価額は通常、路線価に土地の面積を掛けて計算する。路線価は毎年7月に公表される主要道路に面した土地1平方メートル当たりの価格で、時価(公示地価)の8割程度が目安。現預金は金額がそのまま評価額となるのに対し、土地は購入時から時価が変わらなければ評価額を2割程度引き下げられる。このため相続節税で土地を活用する例は珍しくない。

税務署の姿勢が厳しくなったのは、最高裁が22年4月に国税庁による追徴課税を「適法」とした判決がきっかけだ。判決の事例ではまず90代の被相続人が約10億円を借り、賃貸マンション2棟を約13億8000万円で購入。

被相続人が3年後に死亡すると相続人は物件の評価額を路線価などを基に約3億3000万円と購入価格の約24%の水準で算定。借入金も相続財産全体から差し引き、相続税税額をゼロと申告した。これに対し税務当局は節税手法が著しく不適当として約3億円を追徴課税し、最高裁も認めた。

もともと路線価は時価の8割程度に設定するため、土地の評価額が時価を2~3割下回る程度なら税務署から指摘を受けにくい。ただ「調査の結果、不動産の取得が租税回避目的に限定されると判断されたり、過度なやり方をしていると受け止められたりすると追徴課税されやすい」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。

高齢の被相続人が物件を購入したり、購入物件を相続後まもなく売却したりすると節税目的と判断されかねない。「評価額が時価を7割程度下回ると過度な節税として受け止められる可能性がある」と藤曲氏は話す。

納税者はどうすればいいだろうか。まず申告前に国外資産で漏れがあったり、土地の評価額が低すぎたりしないかなどを確認することが大切だ。すでに申告を終えていて申告漏れの資産などがあるなら、税務調査の通知がある前に自主的に修正申告をすることを考えたい。

「延滞税を払う必要はあるが、加算税は原則課されずに済む」と藤曲氏は助言する。調査で指摘を受けてから修正すると、延滞税に加えて加算税の対象になる。

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