2024/3/27付 日本経済新聞 朝刊

国土交通省は26日、2024年の公示地価(総合2面きょうのことば)を発表した。全用途の全国平均は前年比2.3%上がり、伸び率はバブル期以来33年ぶりの高さだった。株価や賃金に続き土地にも上昇の波が広がり、日本は脱デフレの転機を迎える。先行きの利上げを懸念し、海外マネーには変調の兆しもある。(関連記事経済・政策面、東京・首都圏経済面、公示地価の一覧を別刷り第2部に)

全用途は3年連続で上昇した。伸び率が2%を超えるのは1991年の11.3%以来だ。バブル崩壊後、日本の地価は長らくマイナス圏に沈んだ。足元で日経平均株価が史上最高値をつけ、物価や賃上げにも勢いが目立つなかで地価も潮目が変わりつつある。

経済を底上げして勢いを持続できるかが今後の焦点となる。23年5月には新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」となり、行動制限が撤廃された。人流回復を受けて店舗需要が増えたほか、オフィス需要も底堅い。
23年の訪日客数はコロナ前の19年の8割ほどの水準まで戻した。青森市の商業地は32年ぶりプラスに転じた。クルーズ船再開や「青森ねぶた祭」で観光客を引き寄せた。

東京は在宅勤務の縮小などでオフィス回帰の動きが鮮明となった。東京23区の商業地は平均7.0%プラスとなり、大型オフィスビルのテナント誘致が好調だ。
森ビルが23年10月に開業した「虎ノ門ヒルズ」のステーションタワーはほぼ満床となった。
同年11月開業の「麻布台ヒルズ」でも24年1月までに「延べ床面積の5割強を引き渡した」(森ビルの辻慎吾社長)という。

三菱UFJ信託銀行の竹本遼太シニアリサーチャーは「人手不足で企業の採用が難しくなり、交通利便性など立地条件の良さが重視されている」とみる。
地方投資も勢いづく。2月に開業した台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場に近い大津町の商業地の一部は33.2%上がった。商業地の上昇率で全国トップだった。
半導体企業の日本進出が相次ぎ、国内の関連投資額は29年までに9兆円規模に上る見通し。

新たな雇用が生まれると地域で住宅需要や消費が活発になり、住宅地や商業地の価格も上向く好循環につながる。
当面の懸念材料は日銀のマイナス金利解除が及ぼす影響だ。海外投資家は低金利下の日本で借り入れて不動産に投資する利点が大きかった。日本も本格的な利上げに移れば投資環境は変わる。

その兆候はある。不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)によると、23年の国内不動産投資額は前年比4%伸びた半面、海外からの投資額は32.5%減った。同社の大東雄人シニアディレクターは「金利上昇の警戒感から日本の不動産物件を売却する動きがみられた」と話す。

投資先として不動産の魅力が薄れるリスクもある。ニッセイ基礎研究所の佐久間誠・主任研究員は好調な株価を念頭に「投資家にとっては株式など他の金融商品に目が移りやすい状況にある」と指摘した。

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