2024/1/22 5:00 日本経済新聞 電子版

東京の「空き家問題」が深刻化している。都内の空き家は増加傾向にあり、23区には5万戸超を抱える自治体もある。空き家は管理費や固定資産税がかさむ「負動産」とも言われ、景観や衛生、治安の悪化にもつながる。一方、法改正により従来は困難だった自治体による空き家処分の事例も目立ち始めた。

「行政代執行の終了を宣言します」――。2023年12月。大田区の住宅地で区の担当者が空き家の解体工事の終了を受け、こう表明した。対象の家は1970年ごろ建てられた木造2階建てで、16年ごろから「家の一部がはがれて飛んでくる」といった近隣住民の苦情が相次いでいた。区は所有者に指導を繰り返したが改善が見られなかったため空き家を取り壊す「行政代執行」に踏み切った。

行政による「介入」は主に2つある。1つは民法で規定されている「財産管理人制度」に基づく裁判所への管理人選任の申し立て、もう1つは行政代執行法などに基づく空き家の解体だ。
23区のある担当者は「行政が個人の資産である空き家を取り壊す代執行は『最終手段』。所有者などに粘り強く対応を働きかけるのが基本」と話す。

18年の総務省の調査によると、全国にある空き家は推計で約850万戸、このうち東京都に約80万戸ある。日本経済新聞が東京23区を調べたところ、自治体による空き家への「介入」事例は手続き中のものなどを含め1月時点で12区・40件あった。

空き家を放置すると景観が損なわれるばかりか、住宅の劣化によって災害などで倒壊する恐れも出てくる。とりわけ東京は住宅が密集し、倒壊や火災で近隣の住宅に被害が及んだり再開発に影響が出たりする恐れがあり、対応は急務だ。

ただ、これまで行政の介入には壁があった。その一つとなっていたのが従来の法律では裁判所への「申し立て」ができるのは利害関係者に限られていたことだ。23年の法改正で空き家の対処が必要な場合は自治体の申し立てが可能になり、ハードルが下がった。ある区の担当者は「これから申し立ての数は増えていくのでは」とみる。

23区以外でも行政の「介入」事例はある。東京都日野市は23年6月、「都内の自治体で初めて」(同市)市内の所有者不明の空き家1軒について、改正民法の規定に基づく「所有者不明土地・建物管理命令」を東京地裁立川支部に申し立てた。裁判所が選任した財産管理人による23年度中の売却を目指す。

同市によるとこの家は30年以上前に所有者が死亡。家の外壁が緑に覆われ、庭も荒れ果てていた。近隣住民から「放火が心配」「建物の一部がはがれている」などの苦情が相次ぎ、同市は相続人を探すための調査を18年ごろに開始した。

職員が法律に基づいて戸籍謄本を確認したところ、兄弟や本人に近い相続人も既に死亡していた。さらに戸籍をたどっていき、1年がかりで相続対象となる約90人を探し当てた。専門家にも依頼し最終的に108人まで広がったが、連絡がついた人のほとんどが所有者の名前すら知らなかった。同市はこれ以上相続人を探すのは難しいと判断し、裁判所への管理人選任の申し立てを決めた。

一方で、行政による個人の財産への介入は「一部の人にのみ補助を出す構図になる」とする否定的な声は根強く残る。行政が積極的に空き家の処分に関わるようになれば、空き家処分の責任放棄を助長する恐れもある。

日野市都市計画課の浅川浩二課長は「税金の個人資産への投入には最大限慎重であるべきだ」と強調する。それでも申し立てに至ったことについては「荒れ果てた空き家を放置して環境悪化を招くと街の秩序が保てなくなる。苦渋の決断だった」と話す。実際、申し立てにかかる費用は土地の売却益などから返還が望めるという。

空き家が大量に放置されれば、地域経済への悪影響やコミュニティーの崩壊を招きかねない。街の利益と、個人資産への介入の是非を勘案したバランス感覚のある施策が求められる。

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