シニアの間には買い物や通院に便利な立地の住まいにニーズが強い

「⻑い⽼後に備えて、終(つい)の棲家(すみか)を持っておきたかった」。東京都内に住む男性会社員Aさん(56)は築12年の中古マンションを購⼊した理由をこう話す。共働きの妻と合計で4000万円の住宅ローンを借り、それまでの賃貸マンションから住み替えた。60 歳の定年以降も家賃を毎⽉払い続けるより⾃分の資産として家を保有し、安⼼感を得たかったという。

住み替えニーズ強く

50代で住宅ローンを組む⼈がじわりと増えている。SBI新⽣銀⾏では2022年の50代以上の申込件数が、新型コロナウイルス禍前の19年を約2割上回った。三井住友銀⾏でも50代以上の利⽤が増えている。住宅ローン担当者は「⼦供の独⽴など家族構成が変化したとき住み替える例が多く、購⼊⾦額の⼀定割合をローンで賄いたいという需要がある」と話す。

リクルートが⾸都圏の新築マンションを22年に契約した⼈を対象に購⼊理由を聞いたとこ ろ、世帯主が50歳以上では「⽼後の安⼼のため」が38.9%と最多となった。続いて「⽣活に便利なところに住みたい」(32%)、「新しい家に住みたい」(23.8%)などが上位に挙がった。⾼齢になった時に備えて買い物や通院がしやすい場所にあったり、断熱性やバリアフリー性能が⾼かったりする住居へのニーズが強いとみられる。

50代で住宅ローンを組む⼈が増えている背景には住宅価格の上昇がある。不動産流通経営協会の22年度調査によると、⾃宅を売って住み替えた世帯で売却価格が購⼊価格を上回った割合は58.4%と、前年度に⽐べ20.9ポイント増えた。

⾃宅の売却で住宅ローンの残債を完済しやすくなっており「⾃宅を売りやすい環境がシニアの住み替えを後押ししている」と資産運⽤の助⾔などを⼿掛けるガイア(東京・新宿)のファイナンシャルプランナー(FP)、新屋真摘⽒は指摘する。住宅ローンの⾦利が低⽔準で推移し、購⼊資⾦を借りやすいことも⾒逃せない。

住宅ローンは借⼊時の年齢上限が65〜70歳程度、完済時年齢の上限は80歳未満とする⾦融機関が多く、50代以上でも利⽤は可能だ。ただし若い世代より返済が難しくなった際の対応策は限られるため、資⾦計画は慎重に考えたい。

返済計画、⽼後資⾦に⽬配り

まず知っておきたいのは返済期間による総返済額と⽉返済額の違いだ。住宅ローンを借りる際に、返済期間を短く設定すると⽉返済額が増える。返済期間を延ばせば⽉返済額を抑えられるが、総返済額は多くなる。

55歳で2000万円を借りるケースでみてみよう。仮に年1.8%の固定⾦利で試算すると、65歳までの10年で返済するなら⽉返済額は約18.2万円で、総返済額は約2200万円。70歳までの15年返済にするとそれぞれ12.7万円と2300万円、80歳までの25年返済なら8.3万円と2500 万円になる計算だ。

返済期間をどう設定するかは借りる⼈の収⼊や貯蓄などによってケース・バイ・ケース。ただ公認会計⼠で住宅ローンのコンサルティングも⼿掛ける中村岳広⽒は「50代以上は⻑く借りて毎⽉の返済額を抑えることを優先するのが⼀案になる」と話す。定年時に完済することを⽬指すと⽉の返済負担が重くなり、⽼後資⾦の準備が⼿薄になりかねないためだ。

収⼊がある間は⼀定の条件で住宅ローン減税が利⽤できるほか、契約者の死亡など万が⼀の際は⺠間の住宅ローンなら原則加⼊する団体信⽤⽣命保険(団信)でローン残⾼はなくな る。返済期間は繰り上げ返済によって返済途中でも短縮できる。⼀⽅、延⻑するのは難し く、⾦融機関の再審査が必要になる。

返済期間と⽉返済額を設定する際は50代以降の収⼊⾒通しを踏まえることが⽋かせない。会社員の年収が⾼い時期は⼀般的に50代で、55歳前後の役職定年以降は収⼊が減りやすい。FP の遠藤功⼆⽒は「60歳の定年で収⼊が半減するケースもある。収⼊が減っても返済額が収⼊の25%以内に収まるようにしたい」と助⾔する。

予備費を⽤意

同時に⼼がけたいのは毎⽉の返済を続けながら、リタイアするまでに貯蓄を急ぐこと。中村

⽒は「ローン残⾼と同額以上の貯蓄を準備し、いつでも完済できる選択肢を確保することが⼤切」と話す。そのため購⼊時の⾃⼰資⾦(頭⾦)は物件価格の5割程度がひとつの⽬安になるという。


50代以降は病気のリスクも⾼まる。思わぬ出費や収⼊減に備えて「⽼後資⾦とは別に、300 万〜500万円程度の余裕資⾦を⽤意することを考えたい」と新屋⽒は助⾔している。