⾝近な⼈が亡くなったら。想像したくないことだが、万⼀の時には悲しみに暮れる間もな く、様々な「期限」に気を配る必要がある。最近、相続に関わるルールが⾒直されているためだ。
相続税の申告・納税期限は10カ⽉
記者は昨年、親を亡くしたが、悲しみと同じくらい役所などへの連絡や⼿続き、実家の⽚付けなどで忙しかった記憶が残る。ただ、今後はそうした作業だけに忙殺されてもいられない。最低3つの期限を頭に⼊れる必要がある。これらは決して知らなかった、では済まない。
最も早く来る1つ⽬が「10カ⽉」という相続税の申告と納税期限だ。相続税がかからない⼈には無関係だが、2015年に税のルールが変更された後、対象となる⼈は増えている。間に合わせるのは意外に難しい。
税理⼠の市川恭⼦さんは「⾦融機関などとのやりとりに時間がかかり、普通の⼈が思うほど円滑に進まない」と話す。遺産の分け⽅などでもめればさらに時間がかかる。
遺産分割の話し合いが終わらないといった事情で期限は延⻑されない。ルールを守らなければ延滞税、加算税がかかる場合も。意⾒がまとまらない時は法律が決める相続分(法定相続分)などで税を計算し、申告と納税を済ませる。問題はこの時、実際にお⾦を払う必要があることだ。「遺産が不動産ばかりといった場合、納税資⾦の⽤意に苦労する⼈もいる」(市川さん)
登記しないと10万円以下の過料
以前は相続税がかからない⼈は期限は基本的に関係なかったが、状況は様変わりしている。24年4⽉から登場するのが2つ⽬、「3年以内」という相続登記の期限だ。登記とは不動産の様々な情報を記録しておくこと。現在は実家などの不動産を相続しても「登記はいつまでに」と決められていないが、ルール改正後は3年以内の登記が義務となり、正当な理由がないのに登記しないと10万円以下の過料の対象となる。
登記をするのは通常、遺産の分け⽅が決まった後だ。ただ、協議が難航し、3年以内にまとめるのが難しくなることも予想される。
こうした事態に対応し、新しい救済措置がつくられる。相続⼈申告登記と呼ぶ仕組みで、遺産の分け⽅が決まらなくても相続開始と⾃分が相続⼈であることを申し出れば申請義務を履⾏したとみなされる。申し出た⽒名や住所は登記に付記される。複数の相続⼈がいても各⼈バラバラに⾏えるが、義務を履⾏したと認められるのは申し出た⼈だけだ。
相続⼈申告登記のままでは第三者に不動産の権利を主張することはできない。その後に遺産分割が成⽴した場合は、その⽇から再び3年以内に相続登記も義務になるので、いわば⼆度⼿間だ。「現実には3年以内に分割の話し合いも終えて、登記する⽅がトータルの負担ははるかに⼩さい」(⽇本司法書⼠会連合会・副会⻑の⾥村美喜夫さん)
遺産分割協議にも注意
23年4⽉1⽇に始まったのが3つ⽬、「10年以内」という遺産分割協議に関する期限だ。遺産分割協議は遺⾔がない場合などに相続⼈が「遺産をどう分けるか」を話し合うこと。新ルールは厳密には協議⾃体の期限ではなく「10年を過ぎると原則、法定相続分で遺産分割することになる」(⾥村さん)ということだ。
通常、相続⼈の中で⽣前に多額の財産を贈与されていたり、介護などで被相続⼈へ特に⼤きな貢献をしたりした⼈がいる場合、それらを遺産の分け⽅に反映できる。前者は特別受益、後者は寄与分という。法定相続分より公平な分割となる期待があるが、新ルールでは10年以内に話し合いがまとまらないと、原則これらを主張できなくなる。
協議の期限ではないので、10年経過後も相続⼈が改めて話し合い、全員が合意できれば法定相続分と異なる割合で分割できる。ただ、通常は話し合いの時間が⻑引くほど、合意のハードルは上がる。⽣前の贈与や貢献について記憶が薄れたり、証明できる書類が散逸したりするからだ。
昔の相続も対象
取材を経て「⾃分は親の相続がルール改正前でよかったかも」とやや不謹慎な考えが記者の頭をよぎったが、実は遺産分割協議や相続登記の新ルールは昔の相続と無関係とは限らな い。ルール改正前に始まった相続でも⼀定の期限が設けられ、対応が必要になるからだ。
相続登記は基本的にルール改正の24年4⽉から3年、遺産分割協議なら「相続開始から10 年」と「23年4⽉の改正から5年」のいずれかの時点で後ろの⽅が期限だ。⾥村さんは「今後、相続した⼈の⼤半が何らかの期限と関わる。昔の相続も対象なので、相続登記も来年の改正を待たず対応に動く⽅がいい」と話す。
税から登記までの各期限は数え始める起点も微妙に違う。⾃らの事情に照らし、早めに準備したい。