2024/2/9付  ⽇本経済新聞   朝刊

アジアの⾼級リゾートが相次いで⽇本へ進出している。シンガポールリゾート⼤⼿、バンヤングループは2024年夏にも京都に旗艦ブランドを開業する。創業者のホー・クォンピン会⻑は訪⽇外国⼈が急増する状況から「⽇本は⾮常に⼤きな潜在⼒がある」と指摘。インフラ整備など観光業の⻑期的な持続可能性に⽬を向けるべきだと提⾔した。

バンヤングループは1984年創業のリゾート⼤⼿。タイ南部のプーケットを⽪切りに、バンコク、インドネシア・ビンタン島、中国・陽朔などで旗艦ブランドの⾼級ホテル「バンヤンツリー」を展開している。アジア⾵のデザインを出すことで欧⽶系のホテルチェーンとの違いにつなげ、世界20カ国超で75カ所のホテル、60カ所以上のスパなどを有する。

ホー⽒は20代にアジアを代表する経済誌「ファー・イースタン・エコノミック・レビュー」の記者を経て同社を創業し、⼀代でアジアを代表するリゾート⼤⼿に育てた異⾊の経営者だ。⽇本に30年近く通い、東京都内にも⾃宅を持つほか、レンタカーで⽇本各地を旅するなど「知⽇家」としての顔も持つ。

ホー⽒は⽇本の観光市場について「外国⼈客の増加はOECD(経済協⼒開発機構)諸国の中でもトップ」と指摘し、近年は「(外国⼈に対する)⽇本⼈の意識が変わり、⽂化の良さを理解する存在として⾒てくれるようになった」と評価する。外国⼈観光客を受け⼊れる機運が⾼まっているという。

機は熟したとみてバンヤングループは22年から京都や⼤阪、沖縄でホテルを相次ぎ開業した。24 年夏には旗艦ブランドのバンヤンツリーが⽇本に初進出する。京都・東⼭に位置し、能舞台を設けるなど⽇本の伝統との融合が特徴だ。26年以降には同ブランドを箱根、⽩⾺で開業を予定す る。北海道・ニセコでも姉妹ブランドの開業を25年に⾒込む。

先⾏開業した京都の2ホテルは訪⽇外国⼈を中⼼に好調で、観光シーズンの稼働率はいずれも90%を超えるという。ホー会⻑は「円安を追い⾵に、追加投資を検討する」と⽇本での事業拡⼤に意欲を⾒せる。

⼀⽅、課題に挙げるのが外国⼈⽬線での交通インフラの改善だ。東京や⼤阪など都市部だけでなく、まだ開拓されていない地⽅部への個⼈旅⾏客を増やす点で鉄道や⾃動⾞サービスへのアクセス向上が重要と話す。

ホー⽒は⼀例として「外国⼈にとって新幹線チケットの予約は難しく『絶望的』だ」と、購⼊までの⼿続きのわかりにくさを指摘する。「レンタカー会社などのサイトもユーザー⽬線に⽋けており、そのような状況こそ変えるべきだ」と強調する。

労働⼒不⾜も課題とみる。帝国データバンクが23年11⽉に発表した調査では、ホテル・旅館業界の⼈⼿不⾜の割合は7割を超えた。ホー⽒は「移⺠受け⼊れ政策にかじを切らなければ、労働⼒問題は解決しない。経済も衰退する」と警鐘を鳴らした。

⽇本に英語話者が少ない問題については、「⼈⼯知能(AI)が解決することになる」と楽観的な⾒⽅を⽰した。交通、労働、⾔語など観光業のインフラを⻑期的な視点に⽴って改善すれば「⽇本は正しい⽅向に向かうだろう」と期待をにじませた。

⽇本市場ではアジアのリゾート⼤⼿の参⼊が相次いでいる。シンガポールのソネバホールディングスは27年にも進出する。沖縄県ですでに離島を購⼊し、新潟県妙⾼市でも今後⼟地を取得する計画だ。⾹港を拠点とするローズウッドホテルズ&リゾーツは年内にも沖縄県宮古島でリゾートを開業する。

不動産サービス⼤⼿のジョーンズラングラサール(JLL)によると、外国企業による⽇本のホテル関連の総投資額は23年に前年⽐9%減の約1480億円となった。前年からは減少したものの、過去最⾼だった19年の8割強まで回復した。独コンサルティング⼤⼿、ローランド・ベルガーの下村健⼀アジアジャパンデスク統括は「資⾦⼒が⼗分な東南アジアや中韓の企業は円安傾向もあり⽇本を『安い』と⾒ている」と指摘する。

⽇本政府観光局(JNTO)によると、23年の訪⽇客数は2506万⼈で新型コロナウイルス禍前の8 割にまで戻っている。消費額は過去最⾼を更新しており、付加価値の⾼いリゾート需要などは引き続き堅調に推移しそうだ。

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