東京・六本木が2030年までに大変身する。森ビルは六本木ヒルズの隣接地で「第2六本木ヒルズ」とも呼ばれる大規模再開発に着手。他の大手不動産デベロッパーも次々と投資に乗り出し、区域面積に占める再開発の比率は3割に達する。かつての夜の街のイメージから、経済と文化が融合する街へ。東京がニューヨークやロンドンに並ぶための起爆剤を狙う。

6月上旬。多くのビジネスパーソンやインバウンド(訪日外国人)の観光客でにぎわう六本木ヒルズを抜け、けやき坂通りを下った先に、雑居ビルやマンションが立ち並ぶ細い通りがある。音楽スタジオやテレビ制作会社が立ち並ぶものの、人の気配や活気はない。

駐車場越しに六本木ヒルズが見えるこの一帯で、大規模な再開発計画が進行している。森ビルが住友不動産と共同開発する「六本木五丁目西地区」、通称「第2六本木ヒルズ」だ。25年度以降に着工し、30年度をメドに高さ327メートルの超高層ビルや288メートルの住宅棟などを完成させる。延べ床面積は108万平方メートルと、六本木ヒルズを3割超上回る規模。ここ数年、六本木ではオフィスの新規供給が止まっているが一気に拡大する。ホテルや集会場、劇場なども備え、世界中から人々を呼び込む。

森ビルの家田玲子特任執行役員は「六本木ヒルズが完成して20年以上がたった。もう一度、この規模で隣にできれば六本木の活力になる」と語る。第2六本木ヒルズの完成により、近隣の麻布台ヒルズや虎ノ門ヒルズとの一帯運用が可能となる。「個性のある街並みが並び、東京の中で面白い場所になりそうだ」と自信を見せる。

今でこそ米アップルの日本法人やバークレイズ証券など外資系企業も本社を置く六本木だが、ビジネス街としての歴史は浅い。戦後には米国の進駐軍を受け入れたことから「東京租界」とも呼ばれ、進駐軍の撤収後も外国人や若者が集まる、危険な香りの漂う夜の街としてにぎわった。
通称「第2六本木ヒルズ」の再開発予定地。ハードロックカフェ東京も間もなく消える(東京・港)

風景を一変させたのが、六本木ヒルズの開業だ。オフィスやホテルに加え、商業施設や美術館などを備えたことで、周辺にギャラリーなどが次々とオープンし、文化都市へと生まれ変わった。

六本木の再開発の根底にあるのが「世界に打って出るための都市作り」という、森ビル創業家2代目の故・森稔氏が掲げた理想だ。森ビルのシンクタンクである森記念財団が調査する「世界の都市総合力ランキング」で、東京は3位。「1位の英ロンドン、2位の米ニューヨークに追いつけないでいる」と辻慎吾社長は悔しがる。平均的に高いスコアを誇る東京だが、欧米の主要都市に比べ文化面で劣後している。

六本木ヒルズに開業前から携わった家田氏は「東京を世界に誇れる文化を発信できる街にしようという意気込みで開発し、グローバルな企業や店舗を誘致した」と振り返る。その結果「開業から20年以上たっても来街者数も落ちていないし、商業(施設の売上高)はむしろ上がっている。オフィスは空きが出ればすぐ埋まる状況だ」という。

一方、ハード面を含めた整備はまだ万全とは言い難かった。東京の国際会議の開催件数はシンガポールやソウルといったアジアの近隣諸国を下回る。会議場や展示場、ホテルといった施設が足りていない点が課題とされていた。第2六本木ヒルズはそこを補完する役割を担う。



俳優座劇場エリアも
六本木の大開発に挑むプレーヤーは森ビル勢だけではない。中心地である六本木交差点のほど近く、俳優座劇場を含むエリアでも再開発の検討が進んでいる。同劇場はビルの老朽化や事業収支の厳しさを理由に25年4月末で閉館する。戦後の演劇界発展に寄与し、約70年も続いてきた劇場だけに、閉館後の活用策が注目されていた。
関係者によると、数年前に近隣ビルのオーナーら地権者が入った準備組合が立ち上がり、再開発に向けた議論が少しずつ進んでいるという。「現時点でオフィスやホテルといった具体的な活用案は決まっていない」というが、土地の歴史を踏まえ文化施設を盛り込む可能性もありそうだ。

六本木ヒルズの西側では、野村不動産などが28年度、54階建てで高さ200メートルの複合ビルを完成させる予定だ。住友不動産も六本木交差点近くで大型のオフィスビルを25年に建設する計画を立てており、あちこちでクレーンが動く。

六本木の名が付く住所を調べると、1〜7丁目まで存在する合計の区域面積は約115ヘクタール。港区によると、このエリア内で民間事業者などが行う「第一種市街地再開発事業」はこれまで7カ所あった。森ビルが1986年に完成させたアークヒルズを皮切りに、住友不動産の泉ガーデンタワーなどが続く。

赤坂など他地域にまたがる部分を除くと、再開発された面積は20ヘクタール強で、六本木の区域面積の18%を占める。ここに第2六本木ヒルズなど進行中のプロジェクトを加えると、再開発エリアは少なくとも六本木全体の約3割に達する。

ヒルズ成功で住民軟化
再開発が進む背景には、地権者の理解がある。六本木ヒルズの場合、400人以上の地権者を巻き込んだ前例のない規模の再開発で強硬に反対する人も多く、森ビルの社員が靴底をすり減らして訪問して回った。
現在、地権者の多くは六本木ヒルズの敷地内に作られたマンションに移り住み、数億円規模の利益を得た人も少なくない。「成功例が生まれたことで周辺地域の地権者との交渉は進めやすくなっている」(森ビル関係者)といい、後発プロジェクトのハードルは下がっている。

港区の海老原輔・街づくり支援部課長は相次ぐ再開発について、文化交流施設を含めた新たな都市基盤が生まれ「国際競争力の向上や街の強靱(きょうじん)化につながる」と期待する。

とはいえ再開発は街並みを一変させる一大事業だ。海老原課長は「古くからの住民や働く人、来街者を意識する必要がある」とも話す。以前からあるコミュニティーや商店を大事にしつつ、利便性を高めてにぎわいのある街づくりができれば、より魅力のある地域になると予想する。

こうした意見に配慮し、森ビルは地元の人を巻き込んだ夏祭りなどのイベントを開催して、ソフト面でも「外」と「内」を隔てない運用を心がけている。
かつての「ヒルズ族」に代表される負のイメージも消えてはいない。ある不動産関係者は「再開発をきっかけに、住み慣れた街を離れる住民もいる」と語る。地権者ではない、テナントとして入居していた店舗や賃貸住宅に住んでいた人は補償と引き換えに引っ越しを余儀なくされる。「職住近接」という森稔氏が提唱したライフスタイルを享受できるのは、ごく一部の富裕層に限られる。

再び、第2六本木ヒルズの再開発予定地。83年の開業以来、六本木のシンボルのひとつとして営業を続けてきた米国風レストラン「ハードロックカフェ東京」の前で、観光客が記念撮影をしていた。この店も、バブル期にディスコブームでにぎわったロアビルも間もなく消える。
歴史や文化、様々な人が混じり合う多様性が六本木の魅力であることは間違いない。ハードを整えるだけでなく、こうした魅力をどう次世代に受け継ぐか。森ビルをはじめとした不動産デベロッパーの腕の見せどころとなる。

(外山尚之、原欣宏)

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