2024/5/5付 日本経済新聞 朝刊
中古マンションを売買する際の目安となる再販価格(リセールバリュー)が東京都心で高騰している。築10年程度のマンションの売却価格は最大で新築時の約3倍に上昇した。香港やシンガポールなどと比べ物件に割安感があるうえ、円安が海外からマネーを呼び込む環境にある。東京は賃貸に回した際の利回りも比較的高く、中古市場は高値が続く公算が大きい。
不動産調査会社の東京カンテイ(東京・品川)が2023年の首都圏や関西地区などを対象に築10年程度の中古マンションの平均希望売り出し価格を駅ごとに調べて、新築時の販売価格と比較した。近く公表する。
東京メトロの新御茶ノ水駅(千代田区)周辺の物件は、10年ほど前に竣工したマンション価格が新築時の約3倍になった。3.3平方メートル(1坪)あたり424万8000円だった平均分譲価格は、1255万2000円に高騰した。13年に竣工した「ワテラスタワーレジデンス」は分譲時の平均価格が1億118万円だが、中古市場での再販価格は2億7823万円になった。
次いで上昇率が高かった東京メトロの六本木一丁目駅(港区)は約2.7倍になった。坪単価は479万6000円から1274万2000円に上昇した。分譲価格が1億8885万円だった「アークヒルズ仙石山レジデンス」の再販価格は3億5760万円になっている。
関西ではJR西日本の大阪駅周辺(大阪市北区)の物件が約2倍に、名古屋でも名古屋市営地下鉄の久屋大通駅(名古屋市中区)が約1.4倍になった。約10年前に竣工した物件は、東日本大震災による先行きの不透明感などから販売価格が安かったという事情もある。
価格の押し上げ要因が海外の個人マネーの流入だ。外国人向けに都心の中古マンションなどを販売する不動産会社ハウジング・ジャパン(東京・港)のジョー・リグビー会長は「新型コロナウイルス禍が一服して以降、海外勢の売買は堅調。ドル建てでみる都内の物件価格は上がっておらず割安感が高い」と話す。
背景にあるのは対ドルで進む円安だ。21年1月時点で1ドル=103~104円台だった対ドルでの円相場は足元で一時160円の水準まで下落した。中古マンションの価格は円安に振れ始めた21年に入り騰勢を強めた。
もともと東京の不動産はシンガポールやニューヨークなど海外都市と比べると価格水準は低い。日本不動産研究所(東京・港)が23年10月時点の各都市のマンション価格を指数化したところ、東京都港区(指数=100)に対し香港263.4、ニューヨーク142.9、ロンドン205.4と、都内の物件の割安感は際立つ。
東京は投資利回りが高いのも投資マネーをひきつける。都市比較サイト「Numbeo」によると、賃貸利回りは東京都心で3.2%。シンガポール(3.1%)や香港(1.8%)を上回っている。
港区や千代田区では築10年の中古マンションでも、5~6%の利回りが見込めるといわれる。総務省が4月に公表した人口推計によれば、23年10月1日時点の都道府県別の人口は47都道府県のうち東京都だけ人口が増えた。一極集中が続き、賃貸住宅市場は供給不足の状態にある。
賃料相場は今後も上昇が続くとみられている。中古物件でも「億ション」が目立つ。東京カンテイによると、東京都心(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)の中古マンション平均希望売り出し価格は3月で、70平方メートル当たり1億1507万円だった。前年同月比では13.1%高く、過去最高の水準が続く。
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