2024/2/10 2:00 ⽇本経済新聞 電⼦版

⽇本の空き家問題に光が⾒えてきた。英語で空き家情報を発信するSNSのフォロワー数は33万⼈。マイホームやセカンドハウスを求める外国⼈にとって、⽇本の空き家は割安で⼿に⼊る「ジャパニーズドリーム」に映る。国際的にリモートで働く「デジタルノマド」が増えていることもあり、政府も新たな在留資格を創設して需要を取り込む。

⽶カリフォルニア出⾝のタケ・クロサワさんとカナダ出⾝のジョセフ・ストッカマンズさんは昨年、⼤分県別府市で念願のマイホームを⼿に⼊れた。築47年の⼀軒家は2階建ての5DKで、価格は約600万円だった。家は数年間、空き家の状態だったという。

タケさんはインスタグラムの「Cheap Houses Japan(チープハウスジャパン)」を⾒て⽇本の家に興味を持つようになった。⼀緒に旅⾏しているときジョセフさんに教え、物件探しを始めた。2⼈はともに⼤学時代を⽇本で過ごした仲良し。治安の良さや暮らしやすさなどはよく知っている。「温泉があってサーフィンができる暖かい場所」を条件に別府を選んだ。⽇本の住宅関連サイトなども参考に物件を絞り込んだ。

海外で暮らす2⼈が購⼊の際に頼りにしたのは不動産購⼊管理代⾏会社、ニッポントレーディングインターナショナル(福岡市)のジヴ・ナカジマ・マゲンさんだ。別府へ物件を⾒に⾏ってもらい、Zoom(ズーム)で部屋の様⼦などを確認し、購⼊を決めた。「円安の今がチャンスなんだ」。書類作成や⽀払いなどもナカジマさんのサポートを受けた。

とはいえ、築50年近い住宅に暮らすことは容易ではない。「購⼊後、鍵をもらって初めて訪れたときはショックだったよ。古くて床はベコベコだし、窓を開けたら隣の家が近い。でもホテルに戻って深呼吸し、やるべきことを書きだしたら落ち着いた。まず取り組んだのはバルサンをたくこと」(ジョセフさん)と振り返る。

現在は⼤規模リフォーム中。1階の和室は押し⼊れなどを潰してキッチンとつなげた。友達が集まれるよう3メートルの掘りごたつを造作中だ。⽐較的状態のいい2階を寝室や仕事場にしており、かつて訪れた温泉旅館の内装を参考にインテリアにこだわった。リフォーム代は購⼊⾦額とほぼ同じ600万円程度に膨れ上がりそうだが、マイホームを⼿に⼊れた喜びはひとしおという。

NYなら30倍の値段

タケさんの⽗親は50年前に⽇本から⽶国に渡り、カリフォルニアで家を持った。だが不動産会社に勤務していたタケさんは⾔う。「今、別府と同じサイズの家を買おうと思ったらカリフォルニアなら20倍。ニューヨークなら30倍の値段。⽗親の時代には買えても、⾃分たちはとても無理。でもニッポンなら買える」

同じような思いでチープハウスジャパンを⾒る⼈は少なくない。⽶カリフォルニア州で暮らす⽇本⼈⼥性は家族と賃貸住宅に暮らしている。「いつか⽇本にセカンドハウスを持ち、夏休みなどに⾏って家族で過ごしたい」と話す。⽶国では物件価格だけでなく住宅ローンの⾦利も⾼いた め、住宅購⼊を諦める⼈は多いとされている。

チープハウスジャパンのサイトを⾒ると、創設者は⼤学時代に⽇本に留学した経験があり、⽇本で別荘を買いたいと思ったそうだ。数年間のリサーチを経て購⼊し、今は年に数カ⽉を過ごしている。「⽇本は別荘を持つ場所として世界で最も過⼩評価されている。信じられないほど物件が安く固定資産税が低い。そして休暇を過ごすのにとてもすてきな場所」とし、有料のニュースレターで物件や購⼊に役⽴つ情報を提供している。

外国⼈から⽇本が注⽬される⼤きな理由は低コストで質の⾼い暮らしが⼿に⼊ること。治安の良さや町のきれいさなどは知られているが、「昼⾷はチップ不要で通常10ドル以下」「市内なら安い公共交通機関があるので⾞は不要」といった⽣活情報も海外では好意的に受け⽌められてい る。

実際、ナカジマさんのもとには購⼊のサポートを求める外国⼈が増えている。もともと⽇本に興味のある⼈が円安を理由に購⼊に踏み切るケースが多く、⽉に5〜10件が契約する。「安い物件をみて購⼊したいと連絡してくるが、コンディションを考えると500万円以上の物件がお薦め」とナカジマさん。アジアでは外国⼈の不動産取得に厳しい条件を付けるところもあり、⽇本は買いやすさも魅⼒という。

スキーや温泉など外国⼈が⽇本に求めるものは様々。購⼊後にビザを取得して暮らし始める⼈もいるが、海外にも拠点をもち、数カ⽉を⽇本で暮らしながら仕事する⼈たちも少なくない。コロナ禍でテレワークが進み、住む場所を⾃由に選べるようになったことで実現した新しいライフスタイルといえる。

ジョセフさんも⽶ニューヨークでエンジニアとして働いていたが、コロナ禍で在宅勤務を求められた時、狭いアパートで仕事をするのは嫌だと南部ニューメキシコ州のサンタフェに逃れた。暖かい場所で快適に暮らしながら仕事ができ、もはやニューヨークにとどまる必要はないのかもしれないと気づいた。

こうした⼈たちは「デジタルノマド(遊牧⺠)」と呼ばれ、世界中で約3500万⼈いるとの調査もある。欧州やアジアでは専⽤ビザを発⾏し、積極的に⼈材を呼び込む動きも出ている。

ジョセフさんは⽇本の空き家情報を求めている⼈向けのサイト「Akiyamart(アキヤマート)」を⽴ち上げた。英語で物件を紹介している。今、理想とする暮らしは世界各地に拠点を持つこ と。「地元カナダと⽇本とニューヨーク。あともう⼀つはどこかワイルドカードだね」と笑う。

広がる空き家紹介ビジネス

外国⼈向けに空き家を紹介するビジネスは増えている。PR会社のパルテノンジャパン(東京・千代⽥)が2020年に⽴ち上げた「AKIYA&INAKA」もその1つ。

コロナ禍で⽇本に住む外国⼈から「地⽅の広い家で仕事しながら暮らしたい」とのリクエストが相次いだのがきっかけだった。

当初は⽇本在住の外国⼈向けだったが、海外メディアやSNSで取り上げられ、今では問い合わせのほとんどが海外からという。アレン・パーカー社⻑の⽶国の実家は築100年。「海外では古さが住まない理由にはならない。むしろ⼤切に建てられて維持されてきた家は魅⼒的」と話す。

最近ではドバイ在住の顧客が埼⽟県⼩川町の物件を購⼊した。現在は⽶国在住者の「⼤阪で川のそばに家を持ちたい」というリクエストに応えようと物件を探している。同社は物件探しや内覧同⾏、書類作成などのコンサルタント業務で収益を得ている。「コロナ前から⺠泊が広がり、1カ⽉単位で住むように旅をするスタイルが定着したことも購⼊を後押ししている」(パーカー社⻑)

予算の中⼼は10万ドル(約1500万円)。「セカンドハウスがほしいというニーズは世界中にある。⾃分の国にはないけれど⽇本にマイホームをと求める⼈もいる」と需要の⼤きさを指摘する。

外国⼈による不動産購⼊と⾔えば投資⽬的と考えがちだ。ただそれは東京など⼀部に限られる。チープハウスジャパンのサイトには「⽇本で家を買うことは喜びへの投資だが、⻑期的なお⾦を⽣む可能性は低い」と書かれている。

治安の悪化懸念や倒壊の危険性などから社会問題化している空き家。⼈⼝減と都市への⼈⼝集中で地⽅の空き家は増えている。総務省の住宅・⼟地統計調査によると、全国の空き家は18年に約849万⼾と1998年の約1.5倍。7⼾に1⼾が空き家だ。2038年に3分の1が空き家になるとの予測 もある。

国も対策に本腰を⼊れ始め、23年12⽉に改正空き家対策特別措置法が施⾏された。管理状態の悪い空き家の固定資産税負担が上がることで取引を後押しする狙いだ。

さらに出⼊国在留管理庁は2⽇、海外企業に勤めるITエンジニアらが6カ⽉滞在できる専⽤の在留資格を新設すると発表した。ジョセフさんらのように地⽅に拠点を構え、⻑く滞在する⼈も増えそうだ。消費はもちろんのこと、滞在中に地域と交流することでイノベーションが⽣まれ、新たな活⼒につながる可能性はある。

住宅購入で無理のない資金計画を立てる事は、将来の暮らしを変えるポイントとなるので、わからない事などあった際には、是非ご相談ください。

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