2023/8/28 5:00 ⽇本経済新聞  電⼦版

実家住まいの親の「⽼い⽀度」をどうするか、⼦世代で悩む⼈は多いでしょう。親が認知症になってしまったら、介護施設への⼊所資⾦を調達するために実家を売却することが難しく、⼦世代の経済的な負担が⼤きくなります。そこで前回は、遺⾔書と、親が1⼈で物事を決めるのが難しくなった際に⼦が親の家を処分できるよう任意後⾒契約を結ぶという⽅法で将来に備えた筆者の経験についてお話をしました。

⼀番の課題は、⾼齢の親をどうやって説得するのかということでした。⼀般に、親には親としてのプライドがありますから、⼦の⾔うことに必ずしも⽿を傾けてくれるわけではないようです。特に筆者は、⽗が頑固な性格という⾯もあり、かなり苦労をしました。経済的な対処法はあっても、⼼のハードルを越えなくてはどうにもならず、それが最⼤の難所でもあります。今回はどのように説得したのかをお話ししましょう。

⼦の話を全く聴こうとしない⽗、「失敗」を機に説得

遺⾔書や任意後⾒制度の話をしても、85歳の⽗は「⾃分はまだ元気だ。健康診断でも60代と変わらないくらいに健康だと⾔われる」などと⾔い、ほとんど聞く⽿を持ってくれませんでした。⺟の認知症が明らかになり、ケアマネジャーとともにデイケアやショートステイの提案をしても、⽗は「俺が妻を守れば⾜りる」と⾔って提案を受け⼊れることはありませんでした。

⽗が遺⾔書と任意後⾒契約に同意したきっかけは、⽗のたび重なる失敗にありました。昨年末、⽗が買い物に出かけた際、⽗は雪の残る道で転倒して意識を失い、救急⾞で運ばれるという「事件」が起きました。取り残された⺟はひとり徘徊(はいかい)してしまい、遠くの警察署に保護される事態に発展してしまったのです。そして今年に⼊り、⽗が⽬を離したがゆえに⺟が徘徊してしまい⾏⽅不明となること数回、さらに⽗もバイクで少々遠くへ⾏った際、道に迷って警察に保護されるといった「事件」が発⽣しました。

こうした「事件」のたびに、私たち兄弟は病院や保護してくださった警察署へ両親を引き取りに⾏きました。そしてその都度、私たち兄弟は「⽗1⼈では⺟を守れない。⽗に何か起こった場合、問題はさらに深刻になる」と執拗に責め、遺⾔書と任意後⾒契約の必要性を説いたのです。

結果として、遺⾔書の作成と任意後⾒契約を無事にすませることはできました。でも、親の失敗に乗じて説得すること、ともすれば親のプライドを傷つけるようなこうしたやり⽅が本当に良かったのか、そして今後、⺟のデイケアやショートステイに関しても同じ⽅法で説得することが本当に幸せなのだろうかと悩むようになったのです。

⼦供の価値観を押し付けすぎていないか

そんなとき、「ネイバー」という「親の介護で毎⽇ドキドキ過ごす家族と訪問看護師⼠が、ありたいミライに近づくために⽴ち上げた学び合いのプラットフォーム」を運営している⾺場未織さんと吉村英敏さんとお話しする機会がありました。そこで私の愚痴を聞いてくださるうちに、気づいたことがあります。

⼦は良かれと思って、相続対策や親の介護対策など⽼いへの備え(例えば運転免許証の返納なども含まれるかもしれません)について話したいと思います。その際に、つい⾃分の「こうあるべきだ」という基準を強引に親に押し付けようとしがちです。でも、もしかしたら親の「こうありたい」という価値観や思いを無視していたかもしれない。そして、私たち兄弟のかたくなな態度が⽗をさらにかたくなにさせてしまっていたのかもしれない。かたくなな⽗を強引に説得する材料を得るために、私たち兄弟は⼼の奥底で⽗の失敗を期待していたのではないか――。遺⾔書や任意後⾒の⼿続きを済ませても気持ちがすっきりしなかったの   は、そんな感情にさいなまれていたからかもしれません。

親の価値観を理解し並⾛してみる

「⼦としての、こうあるべきだという基準を少し緩めるだけでも、気持ちが楽になるかもしれませんよ」と吉村さんは筆者に助⾔してくれました。親を「説得する」という表現からして、⼦の「こうあるべきだ」という価値観をそのまま押し付けるという意識が潜在的にあったのかもしれません。親の「こうありたい」に⽿を傾けながら、⼦供の価値観について説明しつつ、親と寄り添って話し合う時間がある程度必要なのかもしれません。親の認知症に備えるために⾏った遺⾔書作成や任意後⾒契約についても、寄り添って話し合いながら進めていくという選択肢もあったのではないかと今では感じています。「説得」でなく「並⾛」する意識で取り組むべきだったのかもしれないと思います。

住宅購入で無理のない資金計画を立てる事は、将来の暮らしを変えるポイントとなるので、わからない事などあった際には、是非ご相談ください。

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