家じまいの⼼得(上)

2023/7/6 5:00 ⽇本経済新聞 電⼦版

「仲良しの友達がお⼦さんと同居するので引っ越してしまったの」。筧家のダイニングテーブルで良男の⺟親の富⼦が少し寂しげに話します。「住んでいた家はどうするの︖」と聞く良男に「いずれ売るつもりみたい。家の中はまだそのままのようね」と答えます。

良男 空いた家は売れるといいけれど放置されてしまうこともある。昔は実家があるとうらやましがられたが、今は処分に⼿間がかかるので「⼤変だね」なんて⾔われるようだな。

幸⼦ 実家の整理や空き家対策が社会問題になっているからね。終活の⼀環で「家じまい」という⾔葉もよく聞くようになったわ。実家を親本⼈や家族が⽚付け・処分することよ。親本⼈が家を売却するなら、次の住まいを決め、家の中のものは全部処分する。最近ではその前段階として、とりあえず室内を⽚付けて住みやすくする⼈も増えているようね。「⽣前整理」とも⾔うらしいわ。

富⼦ 墓じまいは知っているけれど、家じまいもあるのね。家族のためには、やっておいた⽅がよいことなんでしょう︖

幸⼦ 終活というと葬儀や墓の準備を考える⼈が多いけれど、家の中のものや家そのものの⽚付 け・整理の⽅が⼤変なんですよ。親の死後に家の中のものを処分しようとしても⼿に負えなくて、空き家に放置されることが珍しくない。SBIいきいき少額短期保険(東京・港)が実施した終活のアンケート調査(2021年公表)では、⼼配なこと、気になっていることの1位が「物の整理、⽚付け」でした。葬儀や墓の準備を上回ったんですよ。

良男 元気なうちに家じまいや⽣前整理をしておくと家族が助かるというわけか。⻑く住んでいると、ものをため込んでいることも多いからね。お⺟さんの家も「開けてびっくり」なんてことはないだろうね。

富⼦ 私は昔から⽚付け上⼿と⾔われていたから⼤丈夫よ。

幸⼦ ⽣前整理は暮らす本⼈のためでもあるんですよ。家にものがあふれているとつまずいて転倒するリスクが⾼まるでしょう。東京消防庁の救急搬送データ(21年)によると、65歳以上の事故の発⽣場所は「住宅等居住場所」、つまり住み慣れた家が3分の2を占めた。事故の種類は「ころぶ」が最も多く、その4割が⼊院を要する重症でした。家を⽚付けておけばこうした事故を防げますよ。

富⼦ そうね。地震でものが落ちたり倒れたりしてケガをすることもある。家じまいをすることで寿命を延ばせるかもね。

良男 まさに「転ばぬ先の⽣前整理」だな。それに⽬的の⼀つは介護だと聞いたことがあ る。⺟さんの前では⾔いにくいけれど、在宅で介護をするなら介護⽤ベッドのスペースなどが必要になる。事前に荷物を減らしておけば、いざという時に対応しやすいよね。

幸⼦ 親が亡くなった後にまとめて⽚付ければよいと考える⼈もいるけれど、整理には⼿間がかかり、精神的につらい作業でもある。費⽤も残された家族が全部負うことになる。実家の⽚付け講座や掃除サービスを提供する実家⽚づけ整理協会代表理事の渡部亜⽮さんは「親が元気なうちにするのが、経済的にも体⼒的にも精神的にもよい。親の健康寿命(男性72.68歳、⼥性75.38歳=19年)までにやっておきたい」と話していた。

富⼦ そうはいっても、家には思い出の品がたくさんある。どれを捨ててどれを捨てないとか、すぐには決められないわ。

幸⼦ そうですよね。決められないものを⼀時的に保管する箱も⽤意するといいみたいですよ。保管後も使わなければ、処分する。⼤事なのは⽚付けることを⼦ら家族に伝え、できれば⼀緒に取り組むこと。親には不⽤でも、⼦にとって⼤切な品物はある。捨ててしまったら取り返しがつきませんからね。そして家の権利関係の書類など重要品の保管場所を確認す る。必要なときに⾒つからないと困るし、相続の備えにもなりますよ。

良男 いつか売却するときに備えることも⼤切だな。⻑く住み続けた家は不動産の名義が先代のままのことがあると聞いたよ。売却するなら売る⼈の名義に変えて、隣家との境界を確認しておく必要がある。こうした⼿続きは住んでいる親の⽅がスムーズにできそうだね。⺟さん、今のうちにやっておく︖

富⼦   そうね。確認しておくわ。あと、家の整理を業者に頼むと、いくらぐらいかかるの。

幸⼦ 業者によって異なりますね。関東・東海・近畿で年間6000件程度の⽣前・遺品整理を

⼿掛けるリリーフ(兵庫県⻄宮市)の場合は、1LDKで8万8000円から、2LDKで16万5000 円からが⽬安ですね。⾚沢知宣社⻑は「⽣前整理は10万円台、遺品整理は20万円台が多い」と⾔っていましたよ。処分の量が多かったり、依頼者の都合などで作業⽇数が増えたりすれば、100万円を超えることもあるそうです。良男 作業中に貴重な品物が出てくることもありそうだね。
幸⼦ 貴重品などは事前に⾃分たちで保管しておくことが⼤切。また実際の作業に本⼈や家族はできる限り⽴ち会うべきね。作業中に写真や⼿紙など⼤切そうな品が出てきて、捨てるか捨てないかの確認を求められることがあるから。整理業者は全国で8000社以上あるともいわれているわ。複数の業者から⾒積もりをとって⽐較し、信頼できる業者を選びたいわね。


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