2023/6/28 2:00   ⽇本経済新聞   電⼦版

国税庁が「マンション節税」や「タワマン節税」の防⽌に乗り出す。2024年1⽉からの適⽤を⽬指す新たな算定ルールは、相続税評価額を「実勢価格」の6割以上に引き上げることが柱だ。17年度の固定資産税⾒直しに続く改正で、マンション⾼層階の低い評価額を利⽤した過度な節税に⻭⽌めをかける。影響は富裕層にとどまらず⼀部の中間層に及ぶ可能性がある。

「評価額と実勢価格があまりにも乖離(かいり)をしているのは不⾃然だ。適正な評価の仕⽅を検討している」。鈴⽊俊⼀財務相は27⽇の記者会⾒でそう述べ、⾒直しの狙いが不公平の是正にあるとの認識を⽰した。

評価額、実勢価格の6割に上げ

マンションの相続税は資産価値を「時価」に基づいて評価し、⾦額に応じて10〜55%の税率を掛けて申告納税する。新たな算定ルールは、所有するマンションの実勢価格が分からない場合に、理論上の「実勢価格」を計算で導き出すのが最⼤の特徴だ。国税庁が⽤意する新たな計算式に、納税者が築年数や階数などを⼊⼒し、算出された値を従来の評価額に掛けて算定。その6割を新たな評価額とする。

国税庁の調査で、評価額が実勢価格の平均6割となった⼾建てとそろえる狙いがある。結果としてマンションで実勢価格の平均4割程度にとどまっている評価額は6割以上に引き上げられる。

固定資産税に続き⾒直し

政府はこれまでもマンション⾼層階の税負担の在り⽅を⾒直してきた。まず⼿を加えたのが固定資産税だ。17年度の税制改正で、⾼さ60メートル超(約20階建て以上)のマンションで⾼層階の固定資産税の税額を引き上げた。中間階より1階上がるごとに約0.26%ずつ増え、1階下がるごとに約0.26%ずつ減った。40階建てで20階の税額が年20万円だとすると、40階は約21万円となり1階(約19万円)より1割⾼くなる計算だ。

続いて今回、相続税評価額について⾒直した。これでマンションを使った税負担の不均衡を是正する対策はひとつの節⽬となる。

⾒直しの背景に、現⾏の評価⽅法が⾼層マンションを想定していなかったことがある。⽇本で初めて20階以上のタワーマンションが登場したのは1970年代。建築技術の進歩や容積率などの規制緩和とともに増え、現在は全国に約1400棟以上あるとされる。

不動産を使った節税策が注⽬されたのが80年代後半のバブル期だ。路線価は地価の8割で、⾜元の上昇分を反映しにくい。現預⾦を不動産に換えることで評価額を減らせる⼿法として広まり、節税⽬的の取引が地価⾼騰の要因ともいわれた。2015年の相続増税などを受け、マンション節税が富裕層の⼀般的な節税策として広まった。

最⾼裁判決が⾒直し迫る

今回、国税庁に⾒直しを迫ったのが22年4⽉の最⾼裁判決だ。不動産購⼊などを⽤いた過度な節税策を否認した国税当局の追徴課税を最⾼裁は適法と判断。そもそも算定法そのものの⾒直しが必要という判断になり、改正の議論が始まった。

相続税に詳しい松岡章夫税理⼠は「過去の税制改正で⾼層階の固定資産税は引き上げられたが、相続税までは影響なかった。今回は⾼層階ほど税負担が増す可能性があり、適正化に向けた⾒直しだ」と評価する。その上で「都⼼と地⽅のそれぞれの算定⽅法の在り⽅など今後は精緻な検証も必要だろう」と話した。

影響は資産を多く持つ富裕層に限らず、これまで相続税を納める必要がなかった中間層にも及ぶ可能性がある。国税庁が全国のマンションで18年のデータを抽出調査したところ、調査した半分以上で評価額が引き上げ対象となった。

東京都品川区にある実勢価格約9000万円の⾼層マンションで試算すると、評価額は5200万円と2倍超に増えた。築3年で総階数29階のうち住⼾は10階。⼦ども1⼈が相続した場合、従来は基礎控除を差し引いた税額はゼロだったが、新たな算定ルールでは約190万円となった。

国税庁は⼀定の負担増はやむをえないと判断し、公平性の確保に重きを置いた。新たなルールは税収確保より制度の綻びを修正する意味合いが強い。21年度の相続税による税収は2兆8 千億円弱で67兆円の全体の税収の4%ほどだ。同庁幹部は「税収を増やすための変更ではない」と強調する。

岸⽥⽂雄⾸相は「新しい資本主義」を掲げ「分厚い中間層を復活させる」と訴える。こうした⽅向性と⽭盾しているとも受け⽌められかねないため、政府は改正の意図を正確に説明 し、どのような負担が⽣じうるのかを明確にすることが重要になる。

⼤⼿不動産株、軒並み下落

マンション相続の算定ルール⾒直しの⽅針をうけ、株式市場ではマンション販売が鈍るとの警戒が出ている。販売の中⼼は居住や投資⽬的とされるが、地⽅を中⼼に節税需要は根強 く、販売に影響するとの⾒⽅があるためだ。

27⽇の東京株式市場で⼤⼿不動産株は軒並み売られた。野村不動産HDと住友不動産はいずれも前⽇⽐4%、三井不動産は3%下げる場⾯があった。

不動産経済研究所によると5⽉の⾸都圏(東京都、神奈川県、埼⽟県、千葉県)の新築マンションの1⼾あたり平均販売価格は8068万円と5年で4割上昇した。東京23区では同⽉に販売された物件の4割が1億円以上だ。

⾼まるマンション需要の⼀因が節税⽬的の購⼊とみられる。東京カンテイの⾼橋雅之主任研究員は「特に地⽅の物件は富裕層の節税狙いの割合が相対的に⼤きい可能性はある」と分析する。

SBI証券の⼩沢公樹シニアアナリストも「相続⽬的の買いが弱まれば、不動産各社の強気な価格設定が⾒直される可能性がある」と話す。

ただ、「好調なマーケットは居住⽤の実需に⽀えられている。特段の影響はない」(三井不動産レジデンシャル)など、不動産各社は影響は少ないとみている。投資⽬的が中⼼の海外勢への影響も限定的になりそうだ。


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