2023/12/7 4:00 ⽇本経済新聞 電⼦版
賃貸マンションやアパートなどの賃貸住宅に住む場合、その賃貸マンション等の賃貸借契約に基づいて、賃借⼈は居住のために建物を使⽤する権利である「賃借権」を持ちます。この賃借権は、預⾦や不動産と同様に相続の対象になります。そのため、賃借⼈が亡くなると、賃借権は相続⼈が法定相続分に応じて共有(権利の共有を「準共有」といいます)することになり、法的には相続⼈全員が賃借⼈ということになります。
「内縁の妻」は賃借権を相続できず
しかしながら、相談者のような「内縁の妻」には法律上、相続権がありませんので、賃貸借の契約者である内縁の夫が亡くなっても、そのままその地位を引き継ぐことはできません。もっとも、いくつかの判例で内縁の夫婦にもできる限り法律婚と同様の取り扱いをする解釈が採⽤され、また、⼀部の法律にも取り⼊れられてはいます。
借地借家法に「居住の⽤に供する建物の賃借⼈が相続⼈なしに死亡した場合において、その当時婚姻または縁組の届け出をしていないが、建物の賃借⼈と事実上夫婦または養親⼦と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借⼈の権利義務を承継す る。」との規定が置かれているのもその⼀つです。ここでの「賃借⼈の権利義務」とは賃借権を指します。したがって、内縁の夫に相続⼈がいない場合にはこの規定によって内縁の妻は賃借権を承継することになり、アパートに同⼀条件でそのまま住み続けることが可能で す。ただし、賃借⼈としての義務も承継しますから、当然、内縁の妻に賃料⽀払い義務が発⽣します。
問題は、内縁の夫に相続⼈がいる場合です。たとえば、内縁の夫婦間に⼦がおり、内縁の夫が認知しているケースや、内縁の夫が別の⼥性と以前に法律婚をしていてその間に⼦がいるケース、また⼦どもはいないが内縁の夫の親が⽣存しているケースなどが考えられます。これらの場合、相続⼈が賃借権を相続することになるので、前述の借地借家法の規定は適⽤されず、内縁の妻は保護されません。
最⾼裁は1967年の判決で、賃借⼈死亡後に内縁の妻が家主から退去を求められた事案について「賃借⼈の内縁の妻は、賃借⼈が死亡した場合には、相続⼈の賃借権を援⽤して賃貸⼈に対し当該家屋に居住する権利を主張することができる」との判断を⽰し、残された内縁の妻は家主の明け渡し請求に対抗できるとしています。ただし、この判決は「相続⼈とともに共同賃借⼈となるものではない」とも続けています。したがって、内縁の妻は⾃らが賃借権を相続するわけでなく、あくまでも他の相続⼈の権利を「援⽤」するということですから、相続⼈の賃借権が存続していること、相続⼈の意向に沿っていることが前提です。
相続⼈は賃借⼈となって賃料⽀払い義務を負いますが、⾃分が住んでもいない物件の賃料など⽀払いたくないでしょう。したがって、賃料を払わないことも考えられます。その場合、賃貸⼈は賃料の不払いで元の賃貸借契約を解除してしまうでしょう。こうなると、援⽤の前提となる賃借権がなくなってしまいます。
家主に賃料を払えば賃借契約の解除を回避可能
ただし⺠法は正当な利益のある者による第三者弁済を認めていますから、このような場合、内縁の妻が賃貸⼈に直接賃料を⽀払うことによって契約解除を回避することが可能と解されます。ちなみに、内縁の妻が住んでいるのに賃貸⼈と相続⼈が合意によって契約を解除することについては、権利の乱⽤等を理由に否定する判例が複数存在しています。
では、相続⼈が「賃借権を相続したのは⾃分である。私がそこに住むから出ていけ」と⾔って内縁の妻に⽴ち退きを迫った場合はどうなるでしょうか。この場合も、その相続⼈が他に住むところがないなどの事情がない限り、権利の乱⽤として明け渡し請求は認められない可能性が⾼いと思われます。
以上、述べてきたとおり、内縁配偶者の居住の権利については法律や判例でかなり保護される傾向にあるものの、地位が不安定であることは否めません。⼤家から⽴退きを求められた場合には、前述の法律や判例による⼗分な理論武装をしたうえで、新たに賃貸借契約を締結しなおす交渉をするのが妥当かと思います。
本件は男⼥間の内縁にとどまらず、現⾏法では法律婚が認められていない同性婚でも同様の問題が出てきます。解釈でどこまで対応できるのでしょうか。様々な婚姻の形態に合わせ、近い将来、より現実に即した法改正が必要になってくるように思われます。
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