マンションの管理⼈不⾜が深刻化している。新築物件が増加する⼀⽅、主な担い⼿だったリタイア層からの求職は伸び悩む。既存物件は⽼朽化による維持管理や在宅勤務の普及に伴う騒⾳トラブルへの対処など、業務負担は増⼤。⼈⼯知能(AI)などの最新技術を活⽤しながら、住まいの質をどう維持していくのか検討が必要な時代に来ている。

「かつては採⽤で枯渇することはなかったが、今はなかなか成り⼿が⾒つからない」。⼤⼿不動産管理会社の担当者は4⽉、ため息まじりに漏らした。

所属する⽀店は⾸都圏の約100件を担当。管理組合の理事会を近く控えるマンションもあ る。「⾒つかっても、すぐ辞めてしまうことも多い」といい、管理⼈が半年以上不在の物件もあるという。中⾼年の転職⽀援を⼿がけるマイナビミドルシニア(東京・新宿)の担当者も「マンションの管理⼈さんは今は取り合いの状況」と話す。

同社によると、管理⼈は早期退職や定年後のシニア世代が応募してくることが多かった。最近は定年延⻑でもともとの会社や組織で働き続ける⼈が多く、採⽤市場への⼈材供給は細った。

新型コロナウイルスの収束ムードに伴い、⼀般事務などの求⼈が回復し、中⾼年の採⽤も増加。反動で管理⼈の⼈⼿不⾜感はさらに強まった。同社の23年3⽉の「マンション管理員」の求⼈件数は1600件超と前年同⽉の3倍近くに急増したが、採⽤で埋め切れていない。

マンション⼾数の増加による需給の逼迫が背景にある。国⼟交通省によると、低⾦利の影響もあり過去10年ほどは10万⼾前後のペースで新築が増えた。既存物件を含めた総ストック⼾数は21年末時点で685.9万⼾。毎年1%超の伸びを保つ。

既存物件の⽼朽化で維持管理の重要性は⼀段と⾼まる中、管理⼈の引き合いは今後も伸びが⾒込まれる。同省によると、21年末時点で築30年以上のマンションは249.1万⼾あるが、31 年末には約7割増えて425.4万⼾まで膨らむ。マンション管理⼈は分譲マンション黎明(れいめい)期の1950年代から存在していたとみられる。時代とともにサービスは多様化し、近年の業務は多岐にわたる。

物件にもよるが、受付業務や住⺠からの⽣活相談、宅配物や集会場などの鍵の保管、設備の⽬視点検、清掃業務を担うケースもある。不審者対策など防犯上も存在は重要だ。コロナ下で在宅勤務が多くなり、昼間の騒⾳が気になるといったトラブル対応も増えたという。

「業務負担は増している」(都内の管理会社)が、待遇⾯の改善は進んでいない。国の22年の賃⾦構造基本統計調査によると、「居住施設・ビル等管理⼈」の⽉給(企業規模10⼈以 上)は24万5千円と産業全体(34万円)に⽐べて低く、全体が上昇基調にあるにもかかわらず2年前と⽐べ微減となった。

給与を上げるためにはマンション管理組合の承認を得て管理費を引き上げる必要がある。ある⼤⼿不動産管理会社は「物価⾼の中で値上げは致し⽅ないというムードは広がっている が、⼀部では管理組合が否決したり先延ばしにしたりするケースもある」と打ち明ける。全国の管理会社など約350社が加盟するマンション管理業協会(東京・港)の担当者は「⼈⼝減が進む⼀⽅でマンションの数⾃体は減らない。募集しても応募が全くないエリアもあ り、今後管理会社は常駐の管理⼈業務を受託することがますます難しい時代になるのではないか」と話す。業界を挙げた対策が必要な時期に差し掛かっている。

業務代替にAI活⽤の動きも ⽶国は資格制度でスキル向上

⼈⼿不⾜の解消が難しいことを⾒据え、AIなどの技術で⼀部の管理⼈業務を代替する動きもある。

⼤和ライフネクスト(東京・港)は2023年から⼈が担当する受付に代わり、デジタル端末を⼀部マンションに設置。集会所の鍵の管理から居住者の住まいに関する相談なども端末を介したスタッフで対応できるようにする。同社ではこれまでに掃除ロボットによる建物内の清掃や、AIによる防犯カメラの活⽤で管理⼈の削減につなげた例もある。

分譲マンション管理の⽳吹ハウジングサービス(⾼松市)は22年7⽉から⾸都圏の⼩規模マンション(30⼾以下)向けにアプリで管理業務を効率化するサービスを開始。掲⽰板などに張っていたお知らせなどを専⽤アプリで⼊居者に通知するほか、複数物件を1⼈の管理⼈が巡回して業務負担を軽減できるシェアリングの仕組みも導⼊した。

横浜市⽴⼤の⻫藤広⼦教授(不動産マネジメント論)はデジタル対応を進める⼀⽅で「管理⼈の位置づけを⾒直す転換点にある」と指摘。⽶国では管理会社の業界団体などが「オンサイトマネジャー」と呼ばれる管理⼈の資格制度を⽤意する。コミュニケーションや運営の能⼒、共⽤部の改善ノウハウなどが評価され、ヘッドハンティングされる⼈もいるという。

⽇本は管理⼈に画⼀的な業務を求めてきた。元看護師や元教員が⼦どものケアや学習⽀援をしたり、認知症サポーター資格をもつ⼈が⾼齢者の⾒守りをしたりするなど「スキルのある⼈を⽣かす仕組みが必要だ」と話す。「クオリティーに対する納得感があれば管理組合も給与引き上げを承認しやすくなる」として、管理会社が教育・⽀援体制を充実することの重要性も訴えた。