2023/11/25付  ⽇本経済新聞   朝刊

「今年中に暦年贈与を始めると相続税の節税で有利になると聞いた。詳しく教えてほしい」。辻・本郷税理⼠法⼈の浅野恵理税理⼠は11⽉に⼊って、こんな質問を受けることが増えた。2023年度税制改正を受けて24年からの贈与分の扱いが厳しくなるため、年末までに駆け込みで贈与をしようと考える⼈が多いという。

相続税は相続⼈が被相続⼈(亡くなった⼈)から引き継いだ財産額に税率を掛けて計算す る。⽣前に贈与で相続⼈に財産を渡すと相続財産がその分だけ減り、相続税を抑えられる。

財産を受け取る⼈は贈与税の対象になるが、贈与額が1⼈につき年110万円までなら贈与税はかからない。このため相続⼈に毎年贈与して相続税を節税する「暦年贈与」を利⽤する⼈は富裕層を中⼼に多い。ただし過度な節税を防ぐため、相続開始(被相続⼈の死亡)前3年間の贈与は相続財産に加算するルールがある。23年度改正では加算対象期間の3年を7年に拡⼤することが決まり、24年1⽉以降の贈与から相続開始⽇に応じて段階的に延⻑する。

具体的には相続開始⽇が24年1⽉〜26年12⽉なら開始前3年間、27年1⽉〜30年12⽉なら24 年1⽉〜相続開始⽇まで、31年1⽉以降なら開始前7年間が加算期間となる。加算する際は開始前4〜7年間の贈与分から100万円を差し引く仕組みとなっている。

23年12⽉までの贈与はどうか。相続開始⽇が26年12⽉までなら開始前3年間が対象になり、「27年1⽉以降に亡くなれば加算されない」(藤曲武美税理⼠)。このため27年1⽉以降に相続開始が⾒込まれ、相続税も発⽣する可能性がある⼈の間で年内の駆け込み贈与に関⼼が強いという。

24年に贈与を始めても相続開始が32年なら、24年分は開始前7年間から外れるため加算対象に含まれない。今年から贈与して31年に死亡する場合と同じ節税効果は得られる。ただ相続開始⽇が同じ27年以降なら、今年に贈与を始める⽅が来年始めるより多く贈与できる。さらにその分は加算もされず、節税効果が⾼いため「今年中に始めて相続税に備えたいという⼈が⽬⽴つ」と浅野⽒は話す。

では年内に暦年贈与を始めるとどれくらい節税効果があるのか。⼀⼈暮らしの⺟に預⾦2億円の資産があり、⺟が亡くなる31年3⽉の前年まで⻑男と⻑⼥に年110万円ずつ暦年贈与をするケースでみてみよう。

23年12⽉から30年まで暦年贈与をすると贈与額は8年分で計1760万円になり、⺟が死亡し た時点の相続財産は1億8240万円に減る。相続財産に加算するのは暦年贈与7年分から100万円を差し引いた1440万円。23年の分は対象外になるのがポイントだ。相続税は3244万円で、暦年贈与をしない場合の3340万円から96万円少なくなる。

24年に贈与を始めて30年まで暦年贈与をする場合は、贈与額が7年分で計1540万円。⺟が死亡した時点の相続財産は1億8460万円と23年開始を上回る。さらに贈与7年分から100万円 を引いた1440万円を加算するため、相続税は3310万円と30万円の節税にとどまる。相続開始⽇が同じ31年3⽉なら、今年から贈与する⽅が有利になる計算だ。

注意が必要なのは「暦年贈与を23年に始めたという明確な記録を残すこと」とランドマーク税理⼠法⼈の清⽥幸弘代表税理⼠は話す。相続が将来発⽣し相続税の税務調査を受けた場合に、今年の贈与は23年に実施したという証拠になり、加算対象外になるためだ。

記録を残す⽅法は主に2つある。⼀つは年内に贈与の契約書を作り、⽇付を明記することだ。贈与は贈与する⼈とされる⼈の合意がある場合に成⽴する。⼝頭による合意でも有効とされるが、税務調査では実際に贈与があったことを⽰す証拠としてみなされず贈与を否認される可能性が⼤きい。

契約書は⾃分で作成した私⽂書でも有効で贈与⾦額、⽇付、贈与する⼈とされる⼈の住所、⽒名、なつ印などが必要。公証役場で確定⽇付を付与してもらうのも⼀案になる。公証⼈が私⽂書に⽇付のある印を押し、その⽇に⽂書が存在していたことを確実に⽰せる。

もう⼀つは贈与をする⼈の⾦融機関の⼝座から贈与される⼈への⼝座に年内の⽇付で振り込みをすること。振り込みの記録が証拠として残る。国税庁の通達によると、契約書がなくても年内⽇付の⼊⾦なら有効とされる。⾦融機関の年末休業を考慮し、早めに対応することが⼤切だ。

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