2024/3/9付 日本経済新聞 朝刊

国土交通省は不動産取引の基礎情報になる土地の境界や面積を定めやすくする。行政の調査で一定の手続きを経た場合、所有者と連絡が取れなくても測量結果を登記簿に反映できるようにする。現在は所有者の立ち会いが原則必要で、境界を決めるハードルとなっていた。土地情報を整備し大規模な用地取得が必要な再開発を後押しする。

登記所に備え付けられている地図は明治時代の不正確なものが多い。このため国土調査法に基づき、1951年から土地の区画(筆)ごとの境界や面積を確定させる「地籍調査」が続いている。市区町村が主体となって測量し正確な地図に修正している。

調査で境界や面積を確定する場合には、省令で所有者による現地調査立ち会いや図面の確認が必要と定めている。国交省はこの省令を年内に改正し、所有者の確認が得られない場合でも調査を完了できる仕組みを2024年度中にも整備する。

具体的には調査への協力依頼を3回程度通知し、反応がない場合は測量図など客観的資料に基づいた境界の図案を送付。さらに20日間過ぎても所有者から意見がなければ境界を確認したとみなす流れを想定する。所有者へ確実に通知するため最低1回は書留の活用を検討する。

近年問題となっている所有者不明の土地については、正確な測量図といった客観資料があれば市区町村と法務局の協議で境界案を定められる別の手続きを活用する。
見直し背景には地籍調査の遅れがある。国交省は面積ベースの実施率目標を2019年度に57%としていたが、22年度末時点で52%にとどまる。所有者の協力が得られず境界を定められなかった土地は22年度だけでも約9200区画あった。

地籍調査が進んでいないエリアでの用地取得は境界の調整に手間がかかり、再開発への影響も大きい。国交省によると、23年開業の「麻布台ヒルズ」は事業区画の地籍調査が当時終わっておらず、境界や所有者をはっきりさせる作業に約10年を要した。

災害に備える意義もある。東日本大震災で津波被害があった岩手県宮古市での集団移転事業では、移転候補地が地籍調査済みだったため測量作業が要らず、約8カ月間の事業短縮につながった。同県釜石市の市街地復興も事業期間を1年短くできたという。

東京大の清水英範名誉教授(社会基盤学)は「地籍調査は土地の権利の根幹にかかわるもので、再開発や災害時の復旧・復興など様々な事業を進める上で不可欠だ。多様な手段を用いて、調査を加速させる必要がある」と指摘する。

調査実施率は地域差が大きい。都道府県別では青森や佐賀などで90%を超える一方、京都や大阪は1割程度、東京も25%と全国平均の半分の水準にとどまる。都市部では土地の区画が細かく分かれ、複雑な調査が求められる傾向がある。
国交省は効率化に向け、航空機からのレーザー照射による測量方法の導入を市区町村に促す。実施率の当面の目標を29年度末時点で57%とし、境界を決める手続きの「みなし制度」や測量のスピードアップにより上積みを図る。同省はこれらの対策案を3月中にもとりまとめる方針だ。

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