2024/4/25付 日本経済新聞 夕刊
2023年12月、改正空き家対策特別措置法が施行され、「問題のある空き家」の対象が拡大された。破損状況などが軽微な場合でも「管理不全」と判断され、固定資産税が軽減される特例措置の対象から除外される可能性が出てきた。老朽化した実家を放置して近隣住民から自治体に苦情が寄せられ、問題が顕在化する例も少なくない。どう対応すべきかを探った。
「1回要請に応じたら苦情が相次ぐようになった」。東京都内にある空き家を親から相続した40代男性会社員は肩を落とす。
23年、空き家の庭木が伸びて近隣の電線に接触していると連絡があり、慌てて専門業者に約20万円を支払い枝を刈った。これを機に「蜂が巣をつくると困るからツタも処理して」「2階の眺望が悪くなるので、この木も切って」と苦情を訴える書面が次々に投げ込まれる事態に。
男性は遺品整理などが終わり次第、空き家を売る予定で「迷惑はかけたくないが、費用も手間もかかる。すぐの対応は難しい」と語る。一方で、近所に住む女性も「これまでは我慢していた。早く何とかして」と譲らない。
老朽化した空き家を巡るトラブルが各地で相次ぐ。18年時点で約849万戸ある空き家のうち、特に管理が行き届きにくいとされる「使用目的のない空き家」は約349万戸。20年間で約1.9倍に増えた。
国は23年12月に改正特措法を施行。これまで周辺の安全などに著しい悪影響を及ぼすものを「特定空き家」とし、自治体による勧告に至った場合は固定資産税の軽減特例から外してきたが、予備軍にあたる「管理不全空き家」も除外対象に加えた。勧告を受けると、土地の広さに応じて固定資産税が軽減される住宅用地向けの特例措置が受けられなくなる。
国のガイドラインは「特定」について、屋根ふき材なら飛散する恐れがある著しい破損を例示しているが、「管理不全」は破損だけで該当し得る。近所の空き家に不満を抱える住民にとっては、問題が深刻になる前に所有者や自治体に改善を促す根拠ができた。空き家問題を研究するSOMPOインスティチュート・プラス(東京・新宿)の宮本万理子副主任研究員は「多くの自治体が近隣住民の声を空き家の実態把握に活用したいと考えている。法改正で要望や苦情が聞き届けられやすくなる期待がもてる」と話す。
ただし要望する際は冷静さも大切だ。「隣が空き家だから、うちにシロアリが出たと詰め寄られた」。関東地方の空き家管理業者は、担当物件へのクレームに困惑した経験を明かす。「無関係とは断言できないが、苦情を訴えた人の家も古く、責任転嫁に聞こえた」感情的なもつれが深まれば、所有者が空き家管理に消極的になり、問題解決が遠のく可能性もある。
宮本副主任研究員は「近隣住民も国のガイドラインで『特定』や『管理不全』の例を調べてほしい」と語る。空き家の屋根や外壁、排水設備、害虫の状況などが例示されており、空き家の状態と照合すれば、問題といえる状況かを確認する材料になる。
空き家の所有者側には、「管理不全」の導入で早い段階から問題視されることへの不安が根強い。NPO法人空家・空地管理センターの上田真一代表理事は「すぐに管理不全とされるわけではなく、改善要望に対する所有者の対応などで自治体の判断が変わる」と指摘する。所有者に適切な管理を促すのが法改正の目的で「近所や自治体の要請に対処する姿勢を見せたり、対応できない理由を説明したりすれば、すぐに管理不全と判断されることはない」という。
空き家の状態悪化を避けたいのは関係者共通の思いだ。近隣住民は空き家の状況を所有者や自治体に適切に伝え、所有者らはきちんと対応する姿勢を示すことが大切だ。上田さんは「『空き家イコール悪』とみなすだけでは状況は改善しない。所有者はもちろんだが、近隣住民も可能な範囲で管理を助けるといった連帯の姿勢が問われる」と話す。
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