2023/9/28 5:00 ⽇本経済新聞 電⼦版

法律上の結婚をして、20年以上連れ添った配偶者に居住⽤不動産(または住まいを購⼊するための資⾦)を贈与しても、暦年贈与の基礎控除額110万円のほかに2000万円まで税⾦がかからないという制度があり、「おしどり贈与」と呼ばれています。

他⽅、相続⼈が複数いる共同相続では、相続⼈のうち特定の⼈だけが相続開始前に亡くなった⼈(被相続⼈)から特別な贈与を受けていた場合、実質的に相続財産の前払いと扱われ、遺産を法定相続分にのっとって形式的に分配したのでは不公平になる場合があります。

結婚や⽣計のための贈与は「特別受益」

これらを調整するために⺠法が定めているのが「特別受益」制度です。すなわち、相続⼈の中に、被相続⼈から⽣前贈与・遺贈・死因贈与を受けた⼈がいる場合、贈与された分を「特別受益」と⾔います。公平性の観点より、遺産分割の際に、特別受益に該当する部分の財産を分割対象となる遺産に加算し(これを「持ち戻し」と⾔います)、相続財産を分配します。⽣前贈与の場合は、①結婚等のための贈与②⽣計のための贈与――の2つのケースに限定 されており、居住⽤不動産の贈与は⽣計のための贈与の典型例です。

相続⼈が実際に取得する財産である「具体的相続分」は、次の要領で計算します。

  1. 相続開始時の財産+特別受益(持ち戻し)-寄与分(被相続⼈の財産の維持・増加に特定の相続⼈が特別に貢献した場合)=「みなし相続財産」とします。
  1. みなし相続財産に基づいて、各⾃の法定相続分を算定します。ここで算出された相続分を「⼀応の相続分」といいます。
  1. 特別受益を受けた相続⼈については「⼀応の相続分」から特別受益の額を控除したものが「具体的相続分」となります。

たとえば、夫の相続開始(死亡)時の財産として2000万円の預⾦があり、2000万円相当の⾃宅が配偶者(妻)に⽣前贈与されていたという事例を想定します。おしどり贈与以外に特別な条件はないものとします。この場合、相続開始時の財産+特別受益(持ち戻し)4000万円がみなし相続財産となり、法定相続分に沿った分け⽅は以下のような計算になります。

・配偶者:4000万円×1/2(法定相続分割合)-2000万円(⾃宅)=遺産分割で新たに受け取る⾦額は0円(すでに⽣前贈与で受け取っているため)

・⻑男:4000万円×1/4(法定相続分割合) = 1000万円

・⻑⼥:4000万円×1/4(法定相続分割合) = 1000万円

これでは妻は預貯⾦をまったく相続できないことになり、⽼後の⽣活資⾦に不安が残ります。

「持ち戻し免除の意思表⽰」すれば分割対象外に

この場合、被相続⼈である夫が⽣前に「特別受益の持ち戻し免除の意思表⽰」をしておけば妻は特別受益の持ち戻しを避けることができ、これは遺⾔で残しておくことも可能でした。持ち戻しが免除になると、⽣前贈与された⾃宅分2000万円が加算されず、みなし相続分は2000万円ということになるので、預貯⾦2000万円を

・配偶者:2000万円×1/2(相続分割合)=1000万円

・⻑男:2000万円×1/4(相続分割合) = 500万円

・⻑⼥:2000万円×1/4(相続分割合) = 500万円と分けることが可能になります。

ところが、実際には「特別受益の持ち戻し免除の意思表⽰」なるものがほとんど知られていません。いざ相続が発⽣したときには持ち戻しの計算をせざるをえず、とくに、相談者のように前妻との⼦が相続⼈に含まれている場合、相続分を巡る紛争になって妻が苦境に⽴たされるという事態が少なからず発⽣していました。

この点について、2018年に⺠法が改正され、①婚姻期間が20年以上の夫婦の場合②配偶者に対しその居住の⽤に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたとき――の2条件を満たす場合については、原則として「特別受益の持ち戻し免除の意思表⽰」があったものと法律上推定し、遺産分割の対象外とすることになりました。改正法は2019年7⽉1⽇以降の相続から適⽤されています。特別受益の持ち戻し免除の意思表⽰があった場合の効果については前述したとおりです。

なお、改正された⺠法の規定と、税法上の特例制度については必ずしも同⼀ではないので注意が必要です。すなわち、税法上の特例制度は2000万円以下の範囲と限定されるのに対し、⺠法では2000万円という制限はなく、それ以上の⾼額な不動産でも、その全部について特別受益の持ち戻し免除の意思表⽰があったものと推定されます。また、税法上の特例制度は⾦銭の贈与にも適⽤されますが、⺠法では⾦銭の贈与は含まれないなどの差異があります。

さらに注意しなければならないのは、遺留分の計算をする際は、これまでどおり、おしどり贈与の⾦額は遺産に持ち戻して計算する必要があるということです。遺⾔が無くても遺留分が発⽣します。

最⾼裁が2012年の決定で、特別受益にあたる贈与について持ち戻し免除の意思表⽰がされた場合であっても、遺産分算定の基礎となる財産額に含まれると判断していることからも明らかです。ネット上では2019年7⽉1⽇以降の相続に関して、おしどり贈与された居住⽤不動産は持ち戻しの対象外であり、他の相続⼈から遺留分侵害額請求もできないなどと論じているコラムが散⾒されますが、これは誤りです。

前述した事例では⻑男⻑⼥の遺留分はそれぞれ500万円となり、具体的な相続分も500万円であるので、遺留分を侵害していませんが、預貯⾦1000万円、⾃宅2000万円というケースを 想定すると、持ち戻し免除の意思表⽰があった場合には

・配偶者:500万円

・⻑男:250万円

・⻑⼥:250万円

になります。しかしながら、遺留分に関しては持ち戻して計算する必要があるため、

・⻑男:3000万円×1/4×1/2   =遺留分375万円

・⻑⼥:3000万円×1/4×1/2   =遺留分375万円

ということになり、それぞれ125万円ずつ遺留分を侵害していることになります。つまり、贈与された⾃宅以外に預貯⾦など⼀定の相続財産がないと、持ち戻し免除が適⽤されても結局遺留分の問題が残ってしまうことになるのです。

おしどり贈与には、不動産取得税が発⽣し、登録免許税の税率も⾼くなること、贈与された配偶者が先に亡くなるリスクがあること、また、節税効果は相続税の配偶者控除の⽅が⾼いことなどのデメリットもあるといわれています。慎重に検討したうえで⾏うべきでしょう。

住宅購入で無理のない資金計画を立てる事は、将来の暮らしを変えるポイントとなるので、わからない事などあった際には、是非ご相談ください。

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