2023/11/30 2:00 ⽇本経済新聞 電⼦版
国内のオフィスビル投資に変調の兆しが出てきた。⾦利上昇に伴う海外不動産不況のあおりで、けん引役だった海外勢は2023年に4年ぶりに売り越しに転じる⾒通しだ。賃料も新型コロナウイルス禍を経てなお下がり続けている。住宅を含む不動産投資全体は堅調だが、⽇銀が⾦融正常化を探るなか、緩和マネーを原動⼒としてきた構図は転機にさしかかっている。
東京・汐留にある超⾼層オフィスビル「汐留シティセンター」に注⽬が集まっている。ビルの持ち分の⼤半を保有するシンガポール政府系ファンド、GICが23年夏、売却⼿続きを始めたためだ。GICは22年に⻄武ホールディングスから「苗場プリンスホテル」(新潟県湯沢 町)などを購⼊したことで知られる。汐留シティセンターは旧汐留貨物駅跡地の再開発で03年に完成した。当時の開発を仕切ったのは三井不動産。GICは主要な資⾦の出し⼿となり、完成後も保有し続けた。
売却がうまく進むかは不透明だ。9⽉下旬には主要テナントの富⼠通が同ビルから退去することが明らかになった。本社を構えていたが、新型コロナウイルス下でテレワークが定着したため、研究者やエンジニアが働く拠点に本社機能を移すという。
⾜元でテナント争奪戦は激しく、代わりの⼊居者探しは難航する恐れがある。秋以降、売却に向けて⽬⽴った動きがないため「仕切り直しを迫られている」(不動産業界関係者)との⾒⽅が強い。
GICは都内で保有する他の⼤型オフィスビルも売却⼿続きを進めている。資産圧縮を急ぐ背景に、海外の運⽤環境の悪化がある。23年3⽉末までの運⽤成績は過去5年間の名⽬利回りで3.7%と16年以降で最低だった。欧⽶のオフィスビルの価格が急落するなか、相対的に市況 が堅調な⽇本の物件を売却し、埋め合わせを試みているもようだ。
不動産の買い⼿の印象が強かった海外ファンドはここ1年間、オフィスビルを中⼼に「売り⼿」に回っている。中国の政府系ファンド、中国投資(CIC)は22年秋以降、東京都内の複合施設、⽬⿊雅叙園(東京・⽬⿊)の売却を模索した。⼊札でカナダの投資ファンド、ブルックフィールドが優先交渉権を得たものの、条件が折り合わず、売却を⾒送った。
不動産サービス⼤⼿のCBREによると、23年1〜9⽉の海外投資家の国内不動産購⼊額は約8300億円と前年同期⽐2割減った半⾯、売却額は約1兆500億円と2倍強に膨らみ、差し引きで約2200億円の売り越しとなっている。通年で売り越しとなれば19年以来、4年ぶりだ。
海外ファンドの売りはGICのように、海外の運⽤成績悪化を受けて、⽐較的堅調な⽇本で短期的な「益出し」をはかる側⾯が強い。もっとも、⾜元では国内の商業⽤不動産市場を巡っても2つの不安要素がある。
1つがオフィス需要そのものの低迷だ。オフィス仲介⼤⼿の三⻤商事(東京・中央)によると、東京都⼼5区(千代⽥、中央、港、新宿、渋⾕)の平均賃料は23年10⽉まで39カ⽉連続で低下した。
23年10⽉時点は1坪(3.3平⽅メートル)あたり1万9741円と直近ピークの20年7⽉(2万3014円)より14%低い。空室率は6.10%で、供給過剰の⽬安とされる5%を33カ⽉連続で上回っている。都⼼の新しいビルの⼈気は依然強いが、⽴地が不便だったり古かったりすれば空室が増える「⼆極化」が鮮明になっている。
同じ不動産でも住宅やホテルなどの需要は底堅いが、オフィスビルは国内で投資対象として流通している不動産の中⼼的な資産だ。不動産証券化協会(ARES)によると国内の不動産投資信託(REIT)の保有資産の4割をオフィスが占める。投資家によっては他の物件タイプが好調でもオフィスが⾜を引っ張り、不動産全体では運⽤に苦戦するケースが出ている。
もう1つが⾦利上昇懸念だ。これまで⽇本の不動産市場が海外マネーをひき付けてきたのは⽇銀の⾦融緩和に伴う借り⼊れコストの低さによるところが⼤きかった。⾦利上昇で投資妙味が薄れれば、⽇本の不動産に強気だった海外ファンドも⽅針を⾒直しかねない。
すでに⽶欧では⾦利上昇でファンドが借り換えに苦しみ、⽶国ではローンの延滞や債務不履⾏が頻発している。⽶格付け会社⼤⼿ムーディーズ・インベスターズ・サービスが⽶中堅地銀10⾏の信⽤格付けを⼀⻫に引き下げるなど、不動産融資は⽶地銀にとって不良債権の⽕種となっている。
不動産市況の悪化は⽇本経済全体にどの程度のインパクトをもたらすか。⽇銀によると国内銀⾏の不動産業向け融資は23年9⽉末に初めて100兆円を突破した。バブル期の2倍の⽔準で、総貸出額に占める不動産融資の⽐率もバブル期から5ポイント⾼い17%にのぼる。
特にコロナ後に増加に拍⾞がかかり、19年12⽉から残⾼は15兆円積み上がった。三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクの融資残⾼も22年度の1年で2兆7000億円増えた。最近では地⽅銀⾏の⼀部も融資競争に参戦しており「従来の半分の⾦利を提⽰するところもある」(メガバンク幹部)。
「⽶国市場の価格調整が本格化すると、その影響は、世界分散投資を⾏う投資ファンドのリバランスを通じて、世界中に広がることが考えられる」。⽇銀は10⽉の⾦融システムリポートで、海外勢が国内不動産を買い⽀えるメリットとともに、海外市場の影響を受けやすくなっていることへの懸念を⽰した。
国⼟交通省の商業⽤不動産価格指数は10年⽐で約4割上昇し、23年の基準地価は全⽤途の⼟地の上昇割合が全国44.7%にのぼった。地⽅にも地価回復の恩恵が広がるなか、低利な不動産融資が⽇本でも⽕種になる懸念がくすぶる。
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