2024/2/26 4:00 日本経済新聞 電子版
「高齢の母が実家で一人暮らしをしていますが、特別養護老人ホームに入所することを検討しています。しかし、母が施設に入所すると実家が空き家になってしまいます。マイホームを売却する際に譲渡所得から最高3000万円を控除できる制度を親が利用できる期限内に実家を売ったほうがよいのか悩んでいます」
このような相談が筆者によく寄せられます。今回はこうした状況になった場合の検討のポイントについて考えてみました。
マイホーム売却の3000万円特別控除を親が使う
マイホーム(居住用財産)を譲渡した場合、一定の条件のもとで課税対象となる譲渡所得から最大3000万円まで控除することができます。差し引く金額だけ課税所得が減るので所得税を抑えられます。
この特例を受けるには、自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ることが条件です。また、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが必要です(家屋を解体した場合は解体した日から1年以内など、他の要件もあります)。例えば親が2024年4月1日に施設に入所する場合は、親が27年12月31日までに自宅を売る必要があります。
しかし、施設に入所して実家が空き家になるからと言って、親がこれまで暮らしていた住まいを売るのは簡単ではなく、抵抗があるものです。
相続後に子が空き家売却の3000万円特別控除を活用
親が亡くなり相続が発生するまで実家を空き家の状態で保有しても、別のルールが使えれば、相続した人が譲渡所得から3000万円の控除を受けることができます。その仕組みが、相続した空き家の譲渡所得の3000万円特別控除です。亡くなった「被相続人」の居住の用に供していた家屋及びその敷地等、つまり実家の家屋と敷地を相続した相続人が、亡くなった(相続開始の)日から3年を経過する日を含む年の12月31日までに、相続した実家を売却することが条件です。売却にあたっては、一定期限までに家屋を解体または耐震工事を行うなどの要件を満たす必要があります。こうした条件を満たせば、実家の家屋または土地の譲渡所得から3000万円を特別控除できるという制度です。被相続人が特別養護老人ホームなどに入所していた場合でも一定要件を満たせば適用されます。
ただ、ほかにも満たさなければならない条件があります。まず対象となる建物が、1981年5月31日以前に建築され、区分所有建物登記がされていないこと。次に、被相続人が施設入所のため住まなくなる直前に、被相続人以外に住んでいた人がいなかったこと(つまり、被相続人が施設入所前に一人暮らしだった)。さらに、施設入所により被相続人が家に住まなくなった時から亡くなる直前まで、その家屋が事業や貸し付け、または被相続人以外の人の居住用として使われていなかった(つまり、完全に空き家だった)ことも条件です。
ですから、実家の建物が1981年5月31日以前に建てられた一戸建てならば、親の施設入所から3年経過する日を含む年の年末までに親が売らなくても、親の死後に解体などの条件を満たせば相続した子が3000万円控除の特例を受けられます。
1981年6月1日以降に建った一戸建てやマンションは実家の建物が1981年6月1日以降に建てられた一戸建てや分譲マンションの場合は、相続した空き家の特別控除が使えません。3000万円の控除を受けたいなら、親自身が住まなくなった日から3年を経過する日を含む年の12月31日までに自宅を売る必要があります。
ただ、考えてみると、施設に入るために必要な現金を親が持っていて実家を売却する経済的な必要はない場合、すぐに売るのがよいのかは少し考える必要があります。仮に親が自宅売却で得た現金を相続発生まで保有したままだと、相続財産にその現金が含まれるため、売らずに実家を相続する場合よりも相続税が高くなる可能性があるからです。土地と建物の相続税評価額は時価よりも低くなることがほとんどですが、現金はそのまま評価されますので、実家を売らず不動産を継ぐほうが相続税評価額も税額も低くなるからです。
また相続後に実家を売る際は、相続税額のうち一定金額を譲渡益から引く「取得費」に加算できる仕組みが使えるので、譲渡所得を低くできる効果を享受できます。税理士法人アイアセットの石井力税理士に聞くと、主な資産が親の自宅だけで相続税がかかりそうな場合、親が住まなくなってから使わない空き家の状態で保有し続けると固定資産税が毎年かかる上、手入れしていない「特定空き家」とみなされれば固定資産税の負担が高まるリスクもあるそうです。空き家として保有継続する選択肢のほか、第三者に賃貸することで賃料を固定資産税などの納付の原資としつつ、貸家として相続税評価額を抑える方法も検討の余地があると助言をもらいました。
なお、相続時に相続財産の額が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)に収まるならば相続税はかかりません。実家の売却額と親の金融資産の合計額が基礎控除に収まりそうなら、親の施設入所後に実家を売っても税金で不利になる心配はないでしょう。
税理士などの専門家へ相談
石井氏によれば、実家をいつ売るかは、
(1)親が施設に入所するための資金を十分に持っているか否か
(2)実家売却で相続税が高くなる可能性があるか
(3)実家が1981年5月31日以前に建てられた一戸建てなどか否かが有力な判断材料になるのではないかとのことでした。ケースによって選択肢は様々になると思われるので、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
住宅購入で無理のない資金計画を立てる事は、将来の暮らしを変えるポイントとなるので、わからない事などあった際には、是非ご相談ください。
千代田区マンション情報館(株式会社MIRABELL)
【マンション 売却・購入なら千代田区マンション情報館】
メールアドレス:info@mirabell.co.jp
電話:03-3261-5815